30分アニメだと使い回すオープニングやエンディング、CM(*)などをのぞいた正味の番組部分が22分程度。ふつうこの時間のアニメを作るには約1万6000枚のセル画が必要になる。「パンダ絵本館」は極力、動きを減らしてセル画を半分の8000枚にしていたが、スタッフ数は通常の3分の1だったから、制作の遅れは当然のことともいえた。

遅れに遅れた納品は前日になり、とうとう放送当日に納品されるという異常事態に陥った。
当初はアニメ制作会社の門脇プロデューサーが東京から16ミリフィルムを持参して大阪まで納品に来ていたが、それだと受付での入館手続きに余分な手間がかかる。一刻の猶予もなくなったため、ついには私が東京から運んでくるようになった。
放送日の朝、私が東京の編集スタジオで素材を受け取って東京駅へ向かうと、門脇プロデューサーが本社の編成部長に電話連絡を入れる。
「今、北さんがこちらを出発しました」
電話を受けた編成部長は、何時の新幹線に乗って、何時にテレビ上方に到着するかを予測して、プレビュー部署にスタンバイするように指示を出す。
遅刻したり、紛失したりしたら、その日夕方の放送に穴があく。私は東京発・新大阪行きの新幹線に乗り込むと、素材をヒザの上に抱きかかえながら、新大阪駅到着時間にあわせて目覚ましをセット。万が一にも寝すごすことのないように備えた。備えはするものの、「寝すごしてはいけない、盗まれてもいけない」と考えれば、緊張感で眠りにつくことなどできなかった。
新大阪駅に到着すると新幹線を飛び降り、タクシー(*)に乗り込む。と同時にタクシーのネームカードをもらい、車体番号と乗務員名をメモする。もしも車内に置き忘れた場合の備えだ。
無事にテレビ上方本社に到着するころには、1インチVTRを入れた紙袋の持ち手が汗でびしゃびしゃに濡れていた。