サムスン 復活・衰退分岐点#6Photo by Shuhei Inomata

韓国の朴槿恵政権への贈賄事件で、長らく機能不全となっていたサムスングループのトップ、李在鎔(イ・ジェヨン)会長は、国民に向けて「世襲はしない」と宣言していた。では、後継者は育っているのか。特集『サムスン 復活・衰退の分岐点』(全6回)の最終回では、韓国最強財閥のトップ人事の行方に迫る。(ダイヤモンド編集部 猪股修平)

財閥では異例の世襲脱却宣言
反故した場合のリスクは大きい

 衝撃的な一言だった。

「この機会に申し上げます。私は自分の子供たちに会社(サムスングループ)の経営権を譲らないつもりです」

 2020年5月6日、サムスングループの当時副会長だった李在鎔(イ・ジェヨン)氏が、国民向けに行った賄賂疑惑の謝罪会見で明らかにした。韓国では複数の財閥があらゆる産業を牛耳っている。それぞれ創業家が代々経営権を継承するのが通例だった。それ故、財閥トップが経営権を家族に継がせないと宣言するのは、前代未聞だった。

 謝罪の背景にはジェヨン氏の経営権継承問題がある。14年に父親の李健熙(イ・ゴニ)会長が病に倒れて以降、長男、長女、次女のうち誰が経営権を継ぐかが注目された。事実上、長男のジェヨン氏が継ぐ形となったが、後にジェヨン氏が自身の経営権継承が有利になるよう、当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領の知人に賄賂を贈っていた疑惑が明らかになる。

 結果的に25年2月のソウル高等裁判所の判決において無罪となるが、一時は起訴、拘束され、サムスングループのトップとして経営手腕を十分に振るうことが不可能になった。さらに疑惑は他の不正問題や「無労組経営」の批判にまで及んだ。その末に、冒頭の「世襲脱却宣言」へとつながったのだ。

 宣言は、あくまで対外的なパフォーマンスという見方もある。なぜならば、謝罪自体が疑惑の発覚後に設置されたサムスンの経営を監視する独立委員会(サムスン関係者と法曹、学会の有識者で構成)の勧告に従ったものだからである。しかし、国民に向けて発したメッセージを反故にすれば、さらなる批判の高まりは免れない。

 では、サムスングループも日本の大企業と同様、経営幹部らによる会長ポスト争奪戦が勃発するのだろうか。

 次ページでは、現在のサムスングループにおいて権力を握る創業家の人々や役員らの、大財閥の未来のかじ取り役になるための条件を明らかにする。