ここには重要なポイントが2つある。第1に、自分の特性がどこにあるかを知ることだ。例えば、コンピューターが重要になったからといって、高齢者がプログラミングを学んでその専門家になろうとすることが得策とは限らない。この分野には、技能と経験を持つ専門家が、すでに数多くいるだろう。
それよりも、コンピューターができないことに自分の可能性を見出すことが望ましいかもしれない。
情報処理技術の進歩が顕著だからといって、それに直接関連した仕事が自分にとっての最適な仕事であるわけでは必ずしもないのだ。むしろ、コンピューターができない仕事に自分の優位性を見出すことが重要だ。
グラットンら(編集部注/『LIFE SHIFT─100年時代の人生戦略』の著者であるリンダ・グラットンとアンドリュー・スコット)は、テクノロジーが進化し続ける中で、人間特有のスキル、特に「ソフトスキル」の重要性が高まっているという。
これには、共感力、チームワーク、創造性、適応性、問題解決能力などが含まれる。グラットンらはこれらのスキルを機械は真似できないため、人間の仕事がますます価値を増していくとしている。これは、正しい指摘だ。
また、レーガン氏(編集部注/元アメリカ大統領)は、「高齢者の経験こそが重要だ」と主張した。これは、ソフトスキルの具体例を示したものと言えるだろう。
高齢者が考えるべき
比較優位の原則
前項で述べたことは誰もが納得するだろう。
第二の原則は、わかりにくい。しかし、重要なことだ。それは、経済学の言葉を使って言えば、自分が「比較優位」を持つ仕事が何であるかを正しく知り、それに特化するということだ。
前項で述べた原則は、経済学の用語で言うと、「絶対優位」だ。絶対的優位は理解しやすい概念だが、比較優位の概念は理解しにくい概念なのだ。絶対優位と比較優位の違いを正しく理解することが必要だ。
比較優位を理解するには、経済学者のポール・サミュエルソンが示しているつぎの説明を使うのがよい。
いま、A氏は有能な弁護士であり、同時に、タイプを打つのも極めて速いとしよう。町で、一番早くタイプを打てる。では、彼は弁護士の仕事だけでなく、書類を作るためのタイプ打ち作業も自分で行なうのがよいか?