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米トランプ政権がレアアース関連企業の株式購入を進めている。先端工業製品に欠かせないレアアースは中国が最大の産出国であり、米中通商摩擦の焦点になっている。安全保障の強化のための株買いでレアアース銘柄はバブルの様相を呈しているが、リスクも見え隠れする。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)
安全保障の要「レアアース」
対中関係見据え米政府が買い支え
米国の株式市場で、先端工業製品に欠かせない「レアアース(希土類)」関連企業の株価が急騰している。米中通商交渉において、レアアースをめぐる両国の調整が難航する中で、トランプ政権が相次いで複数のレアアース関連企業の株式を一部取得した。
レアアースは世界的に産出量が少ないレアメタル(希少金属)の一種で、スマートフォンや液晶テレビ、EV(電気自動車)などに欠かせない原材料である。例えば、EVのモーターに使われる磁石にはジスプロシウムやネオジムといったレアアースが含まれている。また液晶にはセリウムなどのレアアースが不可欠だ。
そのレアアースの世界最大の産出国が中国である。米国はレアアースの国内需要の7割を中国からの輸入に依存している。ちなみに日本もレアアースの国内需要のほぼ全量を海外からの輸入に頼っており、同じく7割が中国産である。
このため、中国にとってレアアースは最大の「戦略物資」といえ、中国からの輸入に頼る米国では近年、経済安全保障の分野で常にレアアースが焦点となっている。
トランプ政権が株式を一部取得したレアアース関連企業のうち、MPマテリアルズ、リチウム・アメリカズ、トリロジー・メタルズの3社は、半年間(25年4~10月)の株価騰落率を見ると、ピーク時で300~500%も上昇した。一方、米中が1年間の「レアアース停戦」に入るとみられる中、「さすがに過大評価だ」との見方が市場に広がったため、いったん調整に入っている。
それでも、レアアースをめぐる米中の中長期的な対立が深まる中、米政府による一定価格での製品の買い上げや製品買い手のあっせんなど、経済合理性よりも国家安全保障を重視した「安定型の国家資本主義銘柄」として投資家たちが注目している。
「挙国支援」体制で株価急騰
カナダやアラスカにも政府出資
米西部ネバダ州ラスベガスに本社を構えるMPマテリアルズは7月10日に、米国防総省と官民パートナーシップ契約を締結。米政府が同社の株式4億ドル(約610億円)相当を取得し、先端兵器の製造に欠かせないレアアース製永久磁石の米国内サプライチェーン構築を急ぐ。
MPマテリアルズはレアアース産出量で世界第2位、かつ米国内で唯一稼働しているカリフォルニア州マウンテンパスの鉱山からレアアースを採掘して、新たに建設する工場で精製する。国防総省は、同社のネオジム・プラセオジム製品にキログラム当たり110ドル(約1万6720円)の価格下限を10年間保証する。
さらに、米金融大手JPモルガン・チェースとゴールドマン・サックスが10億ドル(約1520億円)の資金提供のコミットメントレターを発行し、国防総省がMPマテリアルズのマウンテンパスにおけるレアアース分離機能の拡張のため、1億5000万ドル(約228億円)を融資するという。文字通り「挙国支援」体制である。
この発表以前に、MPマテリアルズ株は25~30ドル近辺で推移していたが、10月14日にはピークの99ドル付近まで急騰した。
また、米エネルギー省が9月30日にカナダの鉱山会社リチウム・アメリカズの株式5%を1株0.01ドルの低価格株のワラント(特定の期間内に定められた「行使価格」で発行会社の株式を購入できる権利)を通して取得した。さらにネバダ州で同社が米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)と共同開発する西半球最大のリチウム鉱山「タッカーパス」鉱山プロジェクトの株式にも5%出資することが発表された。
これらの出資は、リチウム・アメリカズに対する22億3000万ドル(約3390億円)規模の連邦融資の一環として実施されたもので、米政府が税金を用いた出資の際に担保やリスク低減の目的で活用するものだ。米政府と歩調を合わせるGMは、EV向けバッテリー製造のためにタッカーパスの38%の権益を持つが、事業の第1フェーズで産出されるリチウム全量、第2フェーズの一部を買い取ることになっている。
これにより、米政府に保護された案件が中長期的に安定してもうかるとの思惑から、2.5~3ドルあたりで推移していたリチウム・アメリカズ株は10月14日のピークに10ドルを突破した。
次いで10月6日にはトランプ政権が、カナダの鉱物探査会社トリロジー・メタルズの株式10%を3560万ドル(約54億円)で取得すると発表。同社がアラスカ州で銅のほか、コバルト、ガリウム、ゲルマニウムといったレアアースを開発中のアンブラー鉱区における探査を支援する。
これを受け、1.5~2ドル前後で推移していたトリロジー・メタルズ株も急騰し、10月14日のピークに10ドルを超えたのである。その後、利食い売りや、金と銀が値を削ったことにつられた金属関連株全体の下落などを受けて、これらの銘柄はいったん値を下げているが、依然として米政府による株式取得以前のレベルからは、大きく上げていることに変わりはない。
次ページでは、レアアースを含む鉱物資源関連の米国企業のうち直近の半年で株価が大きく高騰した銘柄一覧を公開する。さらに、レアアース分野の次なる期待銘柄を予測すると同時に、トランプ政権の突然の政策変更で「レアアースバブル」がはじける可能性など、リスクシナリオも検討する。







