ワイド番組を制作し高い視聴率や聴取率を上げるためにチームを指揮する能力や、番組でわかりやすく喋る能力と、他の部署を含めて業務を管理していく能力は別です。仮に、その能力があっても、本人が「現場で働きたい」というケースもあります。

 筆者自身、報道部や制作部の仕事には自信があったものの、一時、管理職に昇進し編成部に配属されたときは、何をどうしていいのかわからず、仕事内容にも興味が持てず、不毛な2年間を過ごしたことがあります。

 また、局の看板アナウンサーだった同僚は、いきなり、アナウンサーという仕事から外され、編成局長という取締役の一歩手前の高い職位に抜擢されたことで体調を崩し、しばらくの間、休職を余儀なくされました。

昇進の落とし穴を防ぐ
管理職教育の重要性

 似たような例は他業種にもありますが、これは組織や企業にとって損です。メジャーリーグで言えば、大谷翔平選手を選手から監督にするようなものです。

 たとえば、トヨタ自動車は「幹プロ」と呼ばれる幹部養成プログラムを充実させています。管理職として何をするのか、に始まり、部下とのコミュニケーションの手法を学ぶ「評価者訓練」と呼ばれる研修が徹底されているのです。

 1日かけて学ぶプログラムでは、「成果のあがらない年上の部下」「プライドの高い若手社員」「そこそこの意識で働く事務職」といったケースについて、ロールプレー演習が実施されています。

 大学の文系学生に人気のニトリホールディングスでも、「社員が自分のロマンを見つけ、実現に向けて成長していくこと」を重視し、40代では個々の専門性を高めること、50代では経営に必要な総合的スキルの修得に重点が置かれています。

 これらはいずれも、職場で実施されているOJT(=On-the-JobTraining)の域を超えたものです。

 筆者が職場で感じてきたこと、そして、先端企業で実施されている管理職教育から言えば、「ピーターの法則」を回避するには、「昇進させる前に意思を確認する」「昇進後の仕事内容や会社側が求める要件を明示する」、さらには「能力向上の機会(管理職教育)を施す」などの対応が必須になると感じています。