在学中に結婚し、「多文化共生クリニック」を経営
朱さんは、神戸大学在学中に12歳年上の夫と出会い、結婚した。自分がこだわりの強い性格なので晩婚型だと自己分析していた朱さんは、20歳そこそこで結婚したことに、自分でも驚いた。それほどまでに相手を魅力的だと感じたのだそうだ。
朱さんが夫と出会ったのは、医師である夫がクリニックを開業するために、朱さんが住む家賃の安いアパートに居を構えて節制をしていた時だった。同じアパートの住人として自然に出会い、意気投合した。
朱さんと夫は、大阪の街なかにクリニックを開業した。朱さんの夫は医者として診療を行い、朱さんはマーケティングや人事を担当し、二人三脚でクリニックを運営している。クリニックは地域密着型で、患者の90%が近隣住民だが、インフルエンザが流行した折に、インバウンドの外国人観光客がクリニックに何人も駆け込んできた。異国の地で体調を崩して不安を抱えた外国人観光客が、中国語ネイティブの朱さんと、英語を話す(朱さんの)夫のケアによって、安心した表情で帰っていく姿を幾度となく目にした。患者たちの表情の変化から、自分が社会に貢献している実感を抱くことができた朱さんは、「私にできることをみつけた!」と思った。それを機に、「多文化共生クリニック」を目指していくことに決めた。
朱さんは、医療を専門とするクリニックにおいて、機械的に診察をするだけではなく、手数料分のサービスを提供しなければならないと考えている。サービスの中身を考えていけば、やはり、「人間が与える安心」という付加価値の提供に行きつく。その点、中国語や英語でのコミュニケーションを保障できるというのは大きなメリットだ。
朱さんは、神戸大学国際人間科学部で学んだことを活かすことができているとも思っている。大学での学びを通して、人間の多様性に目を向け、すぐには理解しあえないような人たちと共に生きていく術を身に付けた。自分とは異なる価値観をもっている人であっても、その人の世界に飛び込んでみることが、当たり前にできるようになったと、朱さんは感じている。他者の世界に入ろうとするコミュニケーションは、「多文化共生クリニック」にとって大切なツールだ。朱さんは、そうしたクリニックの理念が、クリニックのスタッフ全体の中にも浸透しつつあるのを感じている。
外国人観光客だけでなく、日本語に不安の残る在日外国人も、1日に3~4名やって来る。外国人でも安心して受診できるクリニックとして情報が行きわたれば、クリニックの営業にとっても大きなプラスだと、朱さんは考えている。
私は、朱さんの語りを聞いて、留学生が直面する苦労や、その苦労がポジティブな学びになっていく子、そして、その過程でのいくつもの出会いが、美しいストーリーに編まれているように感じた。