他方で、冒険的世界観には、これとはまったく別の人材観があります。共に働くメンバーは、その機能に応じて配置されるだけの歯車ではなく、「個性を活かし合う仲間」でした。したがって、冒険する組織(編集部注/不確実な世界のなかで仲間たちと協力して新たな価値を生み出していく“冒険者”たちが集まる組織)では、ナレッジマネジメントの考え方をアップデートする必要があるのです。

よくできた「マニュアル」
に頼ってしまう弊害とは

 伝統的なナレッジマネジメントについては、運用上の限界や課題も多く指摘されています。

 たとえば、ミスやトラブルが発生するたびにルールや注意書きが加筆されていくため、まともに読みこなせないくらいにマニュアルが膨れ上がってしまっていたり、十分に情報が整理されていないせいで実用性に欠け、だれもデータベースにアクセスしなくなるなどの話はよく耳にします。

 もともとは仕事の属人性をなくすために形式知化を進めていたのに、その情報があまりにも煩雑かつ膨大になってしまった結果、かえって現場の属人的な暗黙知が増えてしまうケースすらあります。そうした「匠の技」を持った人が会社を辞めるたびに、組織から強みが失われるようでは元も子もありません。

 また、形式知だけに頼ったビジネスは、「必勝パターン」を実行すれば確実にシェアを広げられるような局面でしか通用しません。変化があまりに激しい現代のような環境下では、蓄積された形式知そのものがすぐに賞味期限切れになるリスクがあります。

 さらに、「だれがやってもうまくいくマニュアル」には特有の弊害もあります。

 主体的に考えなくても一定の成果が出せてしまう状態が続くと、メンバーはどうしても思考停止の状態に陥りがちです。不透明な環境下では自分の頭で考えて、ものごとを試行錯誤する態度が不可欠なので、全体としての組織力が低下してしまいかねないのです。