他方で、冒険する組織においても、暗黙知を形式知に変換するナレッジマネジメント、つまり、「なんとなくうまくいっている」領域を減らし、それぞれの成功の「再現性」を高めるアクションは大切です。

 むしろ、個人の探究をあと押ししようと思えば、各人が得ている気づきを積極的に形式知化していかないと、「うちの会社は、だれがなにをやっているのかがさっぱり見えない……」という状態になりかねません。

 他方で、冒険的なナレッジマネジメントの目的は、仕事を徹底的にマニュアル化して、だれがやっても同じ成果を出せるような枠組みに人を押し込めることにはありません。

 各自の好奇心に基づいた探究が「車輪の再発明」に陥らないためにも、形式知化すべきところはしっかり形式知化したうえで、そこに収まりきらない暗黙知や属人性を「個性・独自性」として尊重していくことが肝心なのです。

「成功の理由」を引き出す
問いかけのコツとは

 従来のナレッジマネジメントがフォーカスしてきた「暗黙知の形式知化」もまた、やはりそれ自体なかなかひと筋縄ではいかない側面を持っています。

 かつて長嶋茂雄がバッティングのコツを「スーッと来た球をガーンと打つ」と語ったように、すべてのハイパフォーマーが成功の理由をうまく言語化できるわけではありません。また、個人主義や利己主義が蔓延(まんえん)している職場では、“成功の秘訣(ひけつ)”を独り占めして、同僚に教えないようにする人もいるでしょう。

 そのため、暗黙知を形式知に落とし込むためには、聞き手側にかなりの工夫が求められます。このとき、問いかけで意識するべきなのが、「比較の対象をつくって、差分を明らかにすること」です。