なぜなら、人の心はそんな教科書通りには動かないからです。ガクンと深く落ち込んだかと思ったらすぐにケロッとする。あるいは、亡くした直後は大丈夫だったのに、四十九日が過ぎてから急に悲しみが押し寄せ、1年くらいうつっぽくなってしまった。そんな人もいます。
喪失に立ち向かうには、自分なりにあきらめをつけることが大切だと私は思っています。まず、死んだ人は帰ってこないという当たり前のことに気がついてください。
確かに急性期にあきらめろというのは少し酷かもしれません。それでも、しばらくしてひとり暮らしに慣れてくると「意外にひとりでも生きていけるんだな」、そう思えてくるようです。
ずっとうつ状態が続いてしまう人は、圧倒的に少ない。立ち直る人のほうがはるかに多いです。
どんなに悲しくてもいつかは、必ず楽になります。私がみている限りは、皆さんそうなので、おそるるに足らずです。どんと構えてゆったりいきましょう。
伴侶を亡くした人が
すぐ死んでしまうのは…
伴侶を亡くした人が、あとを追うようにあっという間に死んでしまった。そんな話を聞いたことがあるでしょう。実際、こういったことが起こるのは事実です。経験上、特に、妻を亡くした夫。遺された側が男性だった場合「よくある」ことだといえます。
理由は、免疫力の低下です。
年をとると、そもそも免疫力は若い頃より低下しています。そこに、深い悲しみによるうつ状態が引き起こされると、免疫力はがくんと落ちてしまうわけです。そうなると、それまで体に潜んでいたガンが大きくなったり、転移したりしてしまいます。それが原因です。
妻や夫が死んだからガンになるということはないですが、70代80代の人で、調べてみたらガンがあるという人はまぁまぁいるはずです。事実、私が浴風会病院(編集部注:高齢者専門の総合病院)に勤務していた当時、年に100人ほどの解剖結果を目にしていましたが、85歳を過ぎた人の体内には、必ずガンがありました。
うつになり、免疫力が低下すると、隠れていた病気が悪さをしだすのです。それが、死期を早める要因の1つとなっているのでしょう。これは避けなくてはなりません。
また、悲しみに暮れ、家から1歩も出ず、食が細くなるというのもよくないことです。年をとればとるほど、栄養が足りないと体はどんどん弱っていきます。衰弱が進み、そのまま死んでしまう。そんなこともめずらしくありません。