山口 とりわけ運用即応力が重要です。運用即応力が軍の能力を左右すると言っても過言ではありません。どれだけスペックの高い兵器をそろえたとしても、うまく使えなければ意味がありません。
企業に例えれば、どんなに良い立地にある立派なビルにオフィスを構え、高性能のパソコンや複合機を揃えても、電気や水が不十分で、機器や施設の管理、スタッフの教育・研修が雑であれば、会社がうまく機能しないのと同じです。この構造即応力と運用即応力を高いレベルで構築、維持することが、国防計画における国と軍の腕の見せどころです。
また、即応力を強化させるには、工業力とともにイノベーション力が不可欠です。それには軍民の教育・研究機関の高い水準と、双方の連携が必要です。米国が軍事先進国である理由の1つは、DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:国防高等研究開発局)という軍事技術の研究開発を担当する機関が存在し、国防総省が多くの企業と連携していることです。
戦争のプロは兵站を語り
素人は戦略を語る
山口 中国、北朝鮮、ロシア、韓国にも似たような仕組みがあります。日本にも防衛装備庁がありますし、2024年10月には「防衛イノベーション科学技術研究所」が発足しました。
結局、高い即応力を持つには高いマネジメント能力が求められます。でも、これは「言うは易く行うは難し」。何が必要で何をするべきかを決め、実行するだけでなく、財政面も考慮しなくてはなりません。予算規模を定めてバランスのとれた配分を行う必要があります。ハードウエアの多くは一度購入すれば済みますが、それを動かし管理するには定期的な支出が伴いますから、先々のことまで考慮に入れなくてはなりません。
国防計画の無駄な部分を是正しなければ、いくらリソースを注ぎ込んでも、即応力は向上しません。これでは穴が空いたバケツに大量の水を注ぎ続けるのと一緒です。
小泉 運用即応力というのは、主に何によって決まるのですか?
山口 中心となるのは、メンテナンス・修理・オーバーホール(MRO)能力、補給・後方支援、サプライチェーンを含むロジスティクスです。「腹が減っては、戦はできぬ」という言葉通り、軍事計画の関係者は「戦争のプロは兵站(編集部注/戦争を遂行するために必要な人的、物的戦闘力を維持、増強して提供すること)を語り、素人は戦略を語る」と言います。