小泉 尖閣諸島の周りには常時、中国の船が何隻か停泊しています。

山口 明確な領海侵犯や敵対・違法行為、演習をしていたり、あるいは何もしていないように見えるけれども、怪しいような事案がたびたび起きています。問題なのは、これらの事態を起こしている船の数があまりに多いことです。

小泉 自衛権発動に至る前に、おそらく海保が漁船などを強制退去させる段階があると思います。しかし、それに対処するには船と人の数が必要です。

 海保の白い船で対処しているうちに、日本の手駒が足りなくなり、自衛隊の軍艦の出動を余儀なくされた場合、外形上エスカレーションを仕掛けたのは日本側になってしまいます。それは避けなければなりません。グレーゾーン事態の最中に、どこまでつき合う能力を持っているかが常に重要です。相手のほうが先にエスカレーションをせざるを得なくなれば、日本が圧倒的に有利になります。

日本はグレーゾーン事態における
緩衝器を厚く持っておくべき

山口 他国では、日本の海保にあたる沿岸警備隊が準海軍組織として位置づけられている場合がありますが、日本の海保は有事においても文民の法務執行機関であり、非軍事的な活動に限定されています。海保を準防衛組織にするのも一案ですが、現状実行すれば海保への負担が過度に増え、安全と治安の任務に支障が出てしまうでしょう。

 一方で、中国を見れば、人民解放軍海軍はもちろん、「第二の海軍」である海警局、民兵の大群を用いて圧力をかけてきています。北朝鮮やロシア、非国家主体のことも考えると、多方面における警戒・監視が不可欠であり、海保のさらなる強化が急務です。

小泉 ソ連の沿岸警備隊は魚雷やミサイルを積んでいたようです。ソナーもあり、対潜水艦作戦もできました。有事になるとソ連軍の一部になります。国防法上、沿岸警備隊はソ連の軍事力を構成する組織に位置づけられています。

 日本の海保は大型船を持っており、有事には防衛大臣の統制を受けます。自衛隊と一緒になって作戦をするわけではありませんが、グレーゾーン事態という大きな構図の中では、連携することになっています。

 日本がやるべきは、グレーゾーン事態におけるショックアブソーバー、すなわち緩衝器を厚く持っておくことだと思います。グレーゾーン事態をグレーゾーンの中で収められなくなれば、戦争になりますから。これが日本の海保の戦略的意義だと思います。