山口 日本の場合、憲法9条の制約が指摘されることが多いですが、それだけでなく、自衛隊法や交戦規定など、有事における法整備が十分ではありません。

小泉 抑止力不足の一番の問題は法制度ということですか。

山口 法制度と能力の両方ですね。相手側は、日本に圧力をかけても強く反応しないだろうと見ています。すると次第に現状が変更されていき、我が国は脆弱で不利な状況に陥ってしまいます。

ポジティブリスト形式を
ネガティブリスト形式に変える

小泉 法制度の課題では、能動的サイバー防御法の整備以外に何がありますか。

山口 我が国の場合、相手の敵対行為を認めて、警察権から自衛権へ移行する手順が、他国よりも複雑です。平和安全法制によって多少は改善されましたが、それでも制約が多いと思います。

 相手の敵対行為が明らかになって、自衛権が認められた時点では間に合わず、損害を被ってしまう恐れがあります。この脆弱性を是正するには、交戦規定の水準を下げ、警察権から自衛権への移行手順をもっと簡単にするのも一案です。

 これは「すぐ相手を撃て」ということではありません。相手からすれば、日本が先に手を出せば、事態を悪化させたと主張できますからね。そうではなく、一線を少しでも超えたら、敵対行動とみなす、我々は自衛権発動の用意があるとはっきり示すことが、抑止強化につながります。

小泉 交戦規定の水準を下げるというよりは、現状のポジティブリスト形式をネガティブリスト形式に変えるということではないでしょうか。現状は「これはやっていい」としか決まっていません。本来、交戦規定は「これだけはやるな」です。ポジティブリストからネガティブリストへ抜本的に変えないと、現場は縛られたままになります。

山口 おっしゃる通りです。現状はポジティブリストのため、グレーゾーン事態への対処が難しい。相手は、日本の自衛権の行使が縛られていることを理解していますので、最初は曖昧な行動で攻めながら、決定的な瞬間に敵対行為に移ろうとします。

警察権と自衛権の間の
微妙なところが狙われる

小泉 グレーゾーン事態とは武力攻撃に至らないような事態です。武力攻撃でなければ、警察権で対処し、武力攻撃が始まれば自衛権発動となります。この交代がうまくいくのかどうか、日本としてはずっと問題だったのだろうと推察します。