彼の食生活も確認しました。彼はネイティブアメリカンで、家族のなかで企業に勤めたのは彼がはじめてだと言います。家族が経営する農場で育ち、低脂肪で高タンパク質、かつ複合炭水化物の在来種のトウモロコシやベリー類、豆類、カボチャ、根菜などを主とした食事に慣れ親しんで育ちました。
勤めはじめのころは、元の食生活を維持していました。それは自身のルーツや受け継がれてきたものとのつながりを感じるため、また単純にそうした食事のほうがおいしいと感じていたためです。
ですが会社での評価が上がるにつれて、料理をする時間がなくなっていきました。出張中は空港で買った菓子パンや、栄養よりインパクト重視の贅沢で豪華な会食の料理ばかり口にしていました。家で子どもと過ごすときも、疲れているのと、子どもたちを喜ばせたいという思いで、ピザやファストフードを食べに出かけることが多くなりました。
食生活を見直し
心身ともに復活
わたしは、彼がとっている主要栄養素ががらりと変わってしまったことを指摘しました。食物繊維が豊富な豆類や、地元産の野菜のような低GI値の炭水化物(血糖値の上昇が遅い)など、植物性食品中心の食生活から、バターたっぷりのドーナツやステーキ中心の食生活になっていたのです。
わたしはアハヌに、不安をやわらげるための選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を処方しましたが、同時に、なんとかして以前の食生活に戻すようにすすめました。
出張の合間に、家族といっしょに楽しく伝統的な料理をつくるのを習慣化したり、出張にもっていけるような食事を用意したりといったことを提案しました。
とくに彼が子どものころから食べてきた豆類や根菜類などの、植物性食品を軸とした食事をすすめ、新しい調理法もいっしょに模索しました。そのなかの簡単につくれる食事は、彼の定番料理として家族にふるまわれるようになり、その残りが彼の翌日の昼食になりました。
サーモンのオーブン焼きに、チポリーニオニオン(小さめの平たいタマネギ)とサヤインゲンの味噌焼きはその一例です。ほかにも、スロークッカー(低温調理できる電気鍋)で野菜たっぷりの5種の豆の煮込みをつくり、味つけしたワイルドライスといっしょにふるまったりもしたそうです。