出張中は、ドレッシング別添えのサラダをたくさん食べるようになりました。顧客との会食は仕事の一部で外せませんが、そんなときも、心を落ち着けてくれるメニューがほとんどない高級レストランではなく、寿司のような健康的かつ華やかな食事を探すようになりました。

 それすらも難しいときは、不安を誘発する食事ではなく、魚料理を選びます。ほどなく、アハヌは新しい立場に対して肩の力が抜け、仕事の目標に集中できるようになりました。加えて、伝統的な食生活に戻ったことで家族との絆が深まり、自分のルーツとのつながりを再び感じられるようになりました。食事の大部分を占める主要栄養素の切り替えが、彼の人生を変えたのです。

 ここでは、脂質、炭水化物、タンパク質がそれぞれ不安を増幅させたり軽減させたりする仕組みについて学んでいきます。

メンタルにいい食べもの
悪い食べものとは?

 主要栄養素――脂質、炭水化物、タンパク質――は、食べものを構成する最大の栄養素です。ヘルシーな食事には、基本的にこれらの3つがある程度含まれています。

 ですが当然、問題はその詳細です。バランスのいい配分は何か?それぞれをとるのに、もっともよい食品と悪い食品は何か?そして、それらはどのようにして不安に影響するのか?

 これらの質問に答えるのは必ずしも容易ではありませんし、主要栄養素に対する考え方は時代とともに移り変わっているので、そのたびにアドバイスも移ろいます。脂質を例に挙げましょう。

 現代の栄養学の基礎の大部分が築かれた1940年代後半に、高脂肪の食事と高コレステロールの関連性がわかってきました。高コレステロールは心臓病のリスクを上昇させる、代謝のリスク要因だと知られていました。そのため、低脂肪の食事はコレステロールを下げ、心臓の健康維持にもいいと思われていました。

 最初のうちは、心臓病のリスクを抱える人にのみ低脂肪の食事が推奨されていましたが、その後50年代から60年代にかけて、すべての人に推奨されるようになりました。80年代から90年代にかけては、心臓の健康だけでなく、減量のためにも低脂肪の食事を推奨する、本格的なライフスタイルが開花しました。