医師、政府、そして世論はみな一様に、脂質は可能な限り減らすべきで、脂質のなかでももっとも健康的なのは植物油だと言っていました。それによってバターはマーガリンにとって代わられ、脂肪の多い肉は鶏肉(とくに骨と皮のない胸肉)に置き換えられました。

 脱脂乳が崇められ、世の食品ブランドは、たとえカロリーと糖分たっぷりでもおかまいなしに、あらゆる商品に、こぞって「低脂肪」や「心臓にいい」といったラベルをつけていました。

 ところが2000年代に入ると、風向きが変わりました。長年、脂質が不健康や肥満の諸悪の根源と思われていましたが、今度は別の主要栄養素――糖質が、槍玉に挙げられるようになったのです。

反脂質派と反糖質派
正しいのはどっち?

 糖質を制限するダイエット自体は19世紀から行われてきましたが、ローカーボダイエットが世間一般の健康意識を席巻する勢いで次々と流行したことで、あらためて注目を集めました。

 そして現代では、1980年代や90年代に流行った、低脂肪をメインとしたダイエットはそれほど一般的ではなくなりましたが、ケトジェニックダイエットなど、糖質制限を前提とするダイエットはいまも人気です。

 それでは、反脂質派と反糖質派、正しいのはどちらの陣営だったのでしょう?答えは両方でもあり、またどちらでもないともいえます。ダイエットの伝道師のなかには、特定の主要栄養素を完全に排除しようとする人がいますが、それは間違いです。

 また、最高の主要栄養素のバランスというものも存在しません。

 特定の主要栄養素をメインとする食事が、それぞれ、不安症と強力な相関関係にある2型糖尿病などの症状にどのような影響を与えるか、考えてみましょう。食事療法で2型糖尿病を治療する場合、従来は血糖値やそのほかの代謝指標を正常値に戻すために、低脂肪、低カロリーの食事を推奨していました。考え方としては、50年代に脂質制限が推奨されていたのと似たような理由です。