プロの経験がものを言う調査過程がAIに置き換わる
そもそも相続税調査はどのような体制で行われているのだろうか。まず、その仕組みと関係部門の役割について触れておこう。
通常、相続税調査は、相続財産が多額、もしくは悪質な脱税が見られるといった重大案件を除き税務署職員が行っている。担当部門は、全職員の1割程度で構成される資産課税部門だ。資産課税部門がない小規模な税務署では、個人課税部門の資産課税担当者が任に当たる。
最終的な調査対象の選定は、部門の管理職である統括官、通称「統括(とうかつ)」が行う。彼らは民間企業でいうところの課長クラスだ。ベテランの調査官は自分で調査先を選定するが、最終的に調査する案件は統括官と合議して決める(他の役職者が決める事案もある)。
選定に際しては、国税庁の基幹システムである「国税総合管理システム(KSK)」に蓄積された申告情報などに、調査対象選定システムを連携させて決定する。筆者の所属する租税調査研究会の研究員が入手した内部資料によれば、相続税に関する調査対象選定システムは「相続税選定支援ツール『RIN』」と呼ばれている。その活用イメージは、次の通りだ。
(1)KSKに蓄積された相続税の申告データなどについて、統括官などの調査経験豊富な職員が問題点(条件)をRINに入力すると、RINは一般的な数値と比較して異常値を検出する。(2)統括官は異常値の検出理由を検証し、疑問点をまとめ必要に応じて調査対象を選定する。(3)調査官が統括官の命を受けて個別案件ごとに実地調査を行う。
国税庁は今「税務行政の将来像2023」(*3)を掲げ、税務手続きのデジタル・トランスフォーメーション(DX)を急ピッチで進めている。RINの機能向上はその最重要課題の一つであり、現在は、統括官らが持つ豊富な調査ノウハウをデータとしてRINに蓄積し、あらゆる申告漏れパターンなどを学ばせているという。
これによって、 (1)問題点(条件)の入力、(2)検出された異常値や経験による申告漏れパターンの検証、調査先の選定までのプロセスのAIへの置き換えを図るのが、同庁の目論見なのだ。
*3 税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(国税庁)