資産家でなくてもターゲットになる可能性が上がる

 すでに調査先選定の重要なツールとして利用されているRINだが、AIを用いることでそのプロセスが次のように変わる。

 まず、過去に相続税で申告漏れなどが生じた案件を対象に申告ミスや不正が発生する条件や傾向をAIが分析する。その結果を用いて「申告漏れリスク」をA~Dランクに分類(Aランクが最もリスクが高い)、これらをKSKに保存されている過去の被相続人(亡くなって財産を渡す側の人)の資産内容に当てはめていく。

 相続税の申告が行われると、申告書のほか保険金の支払調書、金などの取引情報、人によっては財産債務調書(*4)などのデータがA~Dのランクに照合され、RINが実地調査を行う対象の優先順位を判断する。

 このAIを用いた調査対象選定システムが稼働することで、相続税調査は、現在、税務署の統括官が行っている調査先選定の分析作業を国税庁が行い、実地調査を税務署の担当者が行うという流れに変えたいと、同庁は考えている。

 つまり、冒頭で述べたように、保有資産の多寡という物差しでだけではなく、申告時の「ミス」「不正」の発見という調査本来の目的に資する調査対象の選定が期待される。端的に言えば、資産家だけが目を付けられるのではなく、金額が小さくても申告にミスや不正があれば調査対象になる可能性が生じる点で、“不公平”が解消される公算は高い。

 国税庁では「国税当局が保有する資料情報等の各種データおよびAI等の分析・活用による的確な選定等を通じ、大口・悪質な不正計算が想定されるなど、調査必要度の高い納税者に対して重点的に事務量を投下し、深度ある調査を実施していく」と鼻息も荒い。国が税収の拡大に躍起になる昨今、その触手は相続の細部にも伸びようとしている。

*4  財産債務調書の提出義務対象者は「財産債務調書の提出義務」(国税庁)参照