AIいよいよ来年から!? AIが相続税調査の対象者を”容赦なく”選別(写真はイメージです) Photo:PIXTA

国税庁では現在、相続税調査対象選定の迅速化のため人工知能(AI)の導入を急ピッチで進めている。相続税調査で狙われやすいといわれるのは富裕層だが、AIの判定基準はあくまでも数字の信ぴょう性。申告に「ミス」「不正」があれば相手が誰だろうと容赦はない。国が税収拡大に躍起になる昨今、その触手は相続の細部にまで伸びている。(ZEIKENメディアプラス 代表取締役社長  宮口貴志)

 AIが相続税調査の対象を爆速で選別!?

 2023年度の相続税収は3兆円を超え、課税件数割合(年間の課税件数を死亡者数で割った値)は1割に迫っている(*1)。社会の高齢化が進む中、課税件数割合の拡大は今後も続く見込みだ。

「相続」には、残された親族(相続人)が申告期限である10カ月以内(*2)に行うべき煩雑な手続きが数多くある。それらをようやく終えて、ほっとしていると……申告から1年ほどたったころに、税務調査は突如としてやってくる。相続税申告後、調査官が申告内容を確認し、不審な点があれば調査に動くという手順なので、どうしても1年程度の時間が必要になるのだ。

 この調査先の選定作業が、近い将来今と比べものにならないほど迅速に行えるようになるという。国税庁は2026年度を目標に、現在は人が行っている調査先の選定業務の大半を人工知能(AI)に移行する方針を示しており、折からの人手不足解消のため、調査先選定作業はAI、実地調査は人間という具合に両者の役割分担を明確化していく。

 第17回で、AIを用いた所得税調査対象選定システムについて紹介したが、相続税調査でもAIが本格的に導入されることになる。

 従来、相続税調査の対象を選択する物差しは「資産規模」と申告データの「統計的な異常値」が主である。富裕層はもちろん、そうでなくても、例えば、預金や株(有価証券)などに“不自然な”資金の流れが確認されれば、調査対象になる可能性は高くなる(第14回参照)。

 いわゆる「名義預金」「名義株」といわれるもので、妻が夫の扶養に入っていたにもかかわらず、かなりの預金残高があるケースなどは「名義預金」と疑われ、預金の出所が厳しく調査される。

「名義株」は、実際に投資資金を払い込んだ出資者と、投資先の株主名簿に掲載されている株主が異なるケースだ。例えば、父が資金を提供し、証券会社に子の名義で口座を開いて子が運用し、配当金も子が受け取っていたケースなどは贈与税の課税対象となる。相続税調査では、こうした贈与の実態をつかむ上でも税務署は厳重な調査を行う。

 このように、保有資産の多寡や資産移動の際の異常値から税務職員が調査対象にめぼしを付けるのではなく、計画では26年度から、AIが過去の不正手口や申告ミスなどのパターンの統計データと照合し、調査先を見つける方法に変わる。これは、これまでの慣行を覆す一大変革といえるだろう。

*1 相続税の税収、課税件数割合及び負担割合の推移(財務省)
*2 被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内。相続の発生日は被相続人の死亡日とは必ずしも一致しない。例えば、相続人が被相続人の死亡を知ったのが死亡から30日後であれば、「死亡後31日目から10カ月」が申告期限となる