専門医の指導で行うトレーニングには、ひょっとすると3カ月くらいかかるそうです。ただそれをちゃんと行うと、本当に自在に使いこなせるようになるらしい。田原さんは、補聴器を使うようになってずいぶん楽になったと言っていました。

トレーニングで視力・聴力を維持
不都合にはあらゆる方法で対応を

 作家の佐藤愛子さんと3年ほど前、月刊誌『婦人公論』で「記憶の扉を開けてみると」というテーマで対談したときのこと。

 佐藤さんは当時、97歳です。対談中、受け答えのタイミングがまったくずれず、とてもテンポよく、打てば響くように会話ができてとても感心したんですね。

 そう伝えると、耳元の髪をちょっとかき上げて、隠れていた補聴器を見せて「これが役に立っているんですよ」と。佐藤さんも補聴器でずいぶん苦労なさったそうです。いろんな国産品を使ってみたけれども駄目で、結局、今の海外ブランドの高額のものにたどり着いた。「やっとこれで普通に会話できるようになりました」と笑っておられました。

 つまり、佐藤さんの打てば響くような会話力は、さんざん苦労してたどり着いた自分に合っている補聴器が支えているわけです。

 聴力が衰えてきても補聴器を活用したら、田原さん、佐藤さんのように知的活動を永続させることができるのではないでしょうか。ただし、できるだけいい補聴器をつけて訓練して使いこなすことが大事なのです。

 ありがたいことに私は、まだ聴力の衰えを感じていません。

 私の場合、かつてレコード会社で働いていたこともあるし、音楽の仕事に携わる機会が多かったので、耳をすごく大切にする癖がついているんですね。耳が悪いと音楽の仕事はできません。

 音楽の仕事では音感と同時に聴力がものすごく大事で、さまざまな訓練法があります。それを私なりにアレンジして、若い頃に聴力を保護する訓練メニューを作った。要は鼓膜の弾力性を失わないためのトレーニングですが、今でも毎日、朝タ2回、ずっと続けています。

 また、活字を読むことやしゃべることも私の仕事ですから、視力や発声力を保護するトレーニングもしています。最近、何年ぶりかに歯の大修理をやっています。おかげで滑舌がひどくそこなわれて苦労しています。

 もし不都合を感じてきたら、補聴器に限らず、いろんな道具の力を借りて仕事を続けていくつもりです。たとえば視力がさらに衰えたら、いい眼鏡や拡大鏡を使う。新聞とか本とか、活字が読めなくなったら困りますからね。