ただ、キヨサキも、E(従業員)やS(自営業者)のような生き方を否定しているわけではない。お金を手に入れるに際して、権利収入、労働収入それぞれの道に違うやり方があると述べている。

 EやS(従業員や自営業者)は「貧乏・負け組」であり、BやI(経営者や投資家)が「金持ち・勝ち組」であるという解釈をする人がいるが、これは誤解である。E、S、B、Iの四象限は枠組みであって、上下のある「階層」ではない。E→S→B→Iの順に成長していくことが望ましいという読み方は必ずしも正しくない。E(従業員)として成功する人もいれば、I(投資家)として失敗する人もいる。キヨサキ自身も「どのクワドラントにも、大金持ちになる人もいれば破産する人もいる。あるクワドラントに属しているからといって金銭的な成功が約束されるわけではな(注1)」と述べている。つまり、E、S、B、Iそれぞれにおいて勝ち筋があるのである。

スティーブ・ジョブズは
目指すべき目標ではない

 B(経営者)を志す人には、Eつまり一従業員の立場から昇進して社長にまで登りつめるというルートもなくはないが、それよりは自ら起業する方が近道だろう。

 起業というと、誰もが「スティーブ・ジョブズを目指せ」といった方向に構えがちだが、「スティーブ・ジョブズ」を目指すという取り組みは、2つの意味で間違っている。

 第1に、ジョブズにせよ、ジェフ・ベゾスにせよ、あるいは孫正義にせよ、カリスマ経営者と呼ばれるような人々は、ごくひと握りの傑出した能力の持ち主なのであり、誰もが目指してなれるものではない。

 第2に、“宇宙をへこませる”ようなアイディアは簡単には生まれない。世界を変えるようなアイディアでジョブズを目指すよりも、むしろ確実な利潤確保を目指した方が、起業としては成功しやすい。

 実際の成功企業事例を見ても、誰でも思いつきそうな、ありふれたアイディアで手堅く展開することで、目を見張るような業績を挙げている会社が少なくない。

 ヘアカット専門店「QBハウス」を展開するキュービーネット株式会社などは典型例だろう。単価の安い理髪店のアイディアだけなら誰にでも発想できただろう。しかし、空想にとどめず、アイディアを実行に移した。

注1 『改訂版 金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、白根美保子訳、筑摩書房、2013年、p.40