目指すべきは
「しょぼい起業」

 この意味で、これから起業するのであれば、えらいてんちょうの著作『しょぼい起業で生きていく』(イースト・プレス)や、先にも挙げた藤野英人の『ヤンキーの虎─新・ジモト経済の支配者たち』が参考になるであろう。

「しょぼい起業」とは、身の回りのちょっとした改善点をもとに、初期費用や固定費用を抑えて起業する手法を指す。誰からも尊敬されないかもしれないし、社会へのインパクトは低い。しかし、起業リスクは極めて低い。

 先述の『ヤンキーの虎 新・ジモト経済の支配者たち』が推奨しているのは、地方に焦点を当てた起業である。これもまた、自分たちの地元において、「何かできないか」という発想から着手していくビジネスモデルである。

 初めから立派な事業計画があったわけではなく、身の回りの面白そうなことに手を出していった結果、中堅企業に成長する例は枚挙にいとまがない。「しょぼい起業」や地方での起業を、社会へのインパクトがないものとして下にみる向きもあるが、こうした見方は間違っていると思う。現在は目覚ましい存在感を示している企業も、最初はみんなしょぼくてローカルなビジネスを起点としていた。

 たとえばリクルートにしても、最初は東大の学生広告というニッチなところからスタートしている。同社はこれだけ巨大化していても、「世の中にどういう“不”があるか」という地に足をつけた視点を重要視している。“不”とは、不満・不安・不足・不便・不快・不都合などの総称である。身のまわりの小さな点に目を向けているという意味では、同社もまた「しょぼい起業」の集合体だともいえる。