会社を売ったお金を原資にしてI、つまり投資家になるというのが、資本主義ゲームにおけるひとつの勝ち筋ではある。ZOZOを売却した前澤友作、ライフネット生命保険を立ち上げ、会長を勤めてから退任した岩瀬大輔など、B(経営者)からI(投資家)に転身している。
E、S、B、Iは必ずしも連続したコースでないことは先に述べた通りだが、I(投資家)はひとつの到達点である。本田圭佑など様々な業界における成功者が最終的に投資家になっている。成功した経営者が投資家となることで、資金の出し手となるとともに、経験に基づいた助言を行ない、異業種で培った知見を新規事業に取り入れることが可能となる。
Iとして投資する元手を確保することを想定するのであれば、最終的には会社を売却することを起業時点で想定しつつ、「できるだけ高く売れる会社を作っていく」ことこそが、Bの人にとっても勝ち筋になる。
高邁な理念を掲げた事業は
あまりにも成功率が低い
いずれにしても、起業するに際しては、過度な気負いを抱いたり、高邁な理念を掲げたりしないようにする方が安全であると私は考えている。借金を抱えるのではなく、自己資金の範囲で、なるべく高利益率のビジネスから始めるべきだろう。
逆に言えば、「イノベーション」や「新しい世界」を目指したビジネスは、あまりにも成功率が低い。そもそもこうした聞こえのよいスローガンは、誇大妄想の類いである気もしなくはない。この意味で私は、オリバー・バークマンによる次の見方に賛同する。
あなたが宇宙をへこませることのできる可能性は、ゼロに近い。「宇宙をへこませる」と言いだした本人のスティーブ・ジョブズでさえ、見方によっては宇宙に何の影響も与えていない。もちろんiPhoneは、僕やあなたのどんな業績よりも長く後世に伝わるだろう。それでも、宇宙的視点から見れば、そんなものは現れては消えていく瑣末なものごとのひとつにすぎない(注2)。
デンマークの心理学者であるスヴェン・ブリンクマンも、著書『地に足をつけて生きろ!加速文化の重圧に対抗する7つの方法』(Evolving)で、現代社会の過剰さ(「もっともっと」を要求する加速主義)を批判的に考察したうえで「地に足をつけた生き方」をすることを推奨している。私も、起業においては、過大な意気込みと資金調達に基づくよりも、堅実なビジネスの方が望ましいと思う。