正社員に求められる要件は
ハイスキル人材ではない
GAFAMのようなグローバル展開をする最先端のITグローバル企業でも、正社員として採用する決め手は、スキルであるとは限らない。むしろ、ハイスキルを持つ人材は業務委託やアウトソーシングで活用すればいいのであって、社内に抱え込むべきは、会社の文化を良い方向に変える力を持つ人材なのである。
意外に感じるかもしれないが、外資系企業も、スキル以外の要素を重視している。例えば、私の古巣であるマッキンゼーでは、人事評価においてClient First (顧客第一主義)、Obligation to Dissent(反論する義務)に重きを置いている(注1)。これらはスキルセットでもあるが、マインドセットでもある。さらにはPMAとよばれるPositive Mental Attitude (前向きな態度)も重視される。これは「どうすれば状況がより良くなるだろうか」と問題を肯定的に捉える姿勢であり、単なる熱意とは異なる。

侍留啓介 著
日立製作所の人材改革が注目されているが、社員に対しては、能力が高いか低いかよりも、むしろ会社が推し進める改革に意欲的に取り組んでいけるメンタリティを持っているかどうかを重視している(注2)。これもPMAに近いマインドセットであろう。
同社は、社内変革に対しての意欲や気構え、すなわちマインドセットを重視している。同社は求める社員を「自燃性(自発的な成長)」と「可燃性(文化を変える巻き込み力)」を備えた「人財」だと定義している(注3)。
21世紀初頭には、英語やITといった可視化されたスキルの重要性を謳うキャリア論が多かったが、今後はマインドセットを含めたソフトスキルに変わっていく可能性もある。さまざまなスキルが陳腐化して目新しいものでもなくなった今だからこそ、他で代替できないマインドセットの持つ重要性が増してきているのだと思う。
注2 2020年7月9日「日立の事業変革とグローバル人財戦略 デジタル社会を牽引する事業変革と人財戦略」に基づく
注3 同上