いくら苦しい現実を世間にうったえても、零細企業や非正規の人たちからは「自分たちはもっと苦しいんだ」と突き放されかねない。それを恐れてか、大企業のなかには自社の恵まれた待遇、社員に対する手厚い保障を外部に隠そうとするところがある。

 企業では大企業と下請企業、正社員と非正社員。芸能分野では大手芸能事務所や劇団に属する人とそうでない人。大学では特別扱いされる看板スポーツの部員とそれ以外の学生。諸々の内外格差をもたらしている構造的なゆがみが、これまで見てきた不祥事の頻発の背景にあったことを考えると、現状の放置はいよいよ限界に近づいているともいえよう。

 にもかかわらず組織の内部では自浄作用が働くどころか、メンバーはいっそうもの言わず、組織に従属する姿勢を強めているのではないか。

グローバル化とデジタル化が
共同体型組織の特殊性をあらわに

 そこへ外部環境に大きな変化の波が押し寄せてきた。

 代表的なものが1990年代ごろから並行して進んだ急速なグローバル化、デジタル化だ。ビジネスがグローバルな競争にさらされることによって、共同体の閉鎖性、非効率な面が批判にさらされ始めた。また海外の文化に触れる機会が増え、共同体型組織の特殊性が際立つようになってきた。

 さらにIT革命に象徴されるデジタル化が能力の価値を変え、特定企業のなかでしか通用しない企業特殊的能力や、アナログ的能力の価値が低下した(ただしデジタル化が困難なアナログ的能力のなかには、逆に価値が上がるものもある)。同時に、その会社特有の慣行が見直しを迫られるようになった。

 そしてグローバル化やデジタル化は、もう1つの大きな波となって組織を揺さぶり始めた。組織を取り巻く世間の目が格段に厳しくなったのだ。

 今世紀初頭あたりから欧米や国際機関は、企業のコンプライアンス(法令遵守)を求める動きが活発化し、つぎつぎと新たな制度が設けられてきた。