強力すぎる事業者主導には
やはり違和感を覚える

 地方の高齢者が電動KBで買い物に行く姿がイメージできないのは私の想像力の問題かもしれませんが、自他に対する安全性が確保されているかどうかは実証実験でも大きな関心事であったようです。

 以上の経緯を経て、2022年4月に「特定小型原動機付自転車」を新設する改正道路交通法が成立したわけですが、業界団体の設立から改正までわずか3年です。これは規制緩和方向での道路交通法改正の流れとしては急激と言ってよいでしょう(逆に、国民の生命・身体を守るための規制強化方向の改正はもっと迅速なものがあります)。

 この道交法改正の眼目は、要するにそれまで運転免許とヘルメットがなければ乗れなかった電動KBを免許もヘルメットもなしで、公道で気軽に乗れるようにしたことにあります。

 その法改正に唐突感を感じてしまうのは、改正の動きが電動KBの推進・普及を図る事業者主導で生まれたものであり、そこに一般消費者の問題意識が伴っていなかったためでしょう。

 そもそも、法改正までは電動KBはお世辞にも普及していたとはいえません。サービス事業者がいなかったという事情もありますが、自家用もさっぱりだったのは免許取得やヘルメット着用が消費者の選択の障壁となっていたことを示しています。

「メットと免許がいるなら『普通の原付』に乗るよ」と考える人がいても格別おかしいとは思えません。

 もちろん「新しい技術やサービスの普及は消費者の需要や意識ではなく、事業者や製品・サービスが主導していくべきものだ」という見方には、私も異論はありません。スマートフォンも消費者が求めたから生まれたわけではないでしょう。

わざわざ法改正するほどの
社会課題があったのか?

 ここでの問題は、電動KBの技術的な有用性ではなく、「公道を時速20kmで走れる動力のついた移動手段を無免許・ノーヘルで利用できるようにする法改正の立法事実があったのか」という点です。

 立法事実とは、法律を制定する場合の基礎を形成し、かつその合理性を支える社会的・経済的・政治的・科学的事実のことをいいます(有斐閣『法律学小辞典(第5版)』1328頁)。