「私が天皇の位についてから、ほぼ28年、この間私は、わが国における多くの喜びのとき、また悲しみのときを、人々とともに過ごしてきました。私はこれまで天皇の務めとして、何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えてきましたが、同時に事にあたっては、ときとして人々の傍らに立ち、その声に耳を傾け、思いに寄り添うことも大切なことと考えてきました。
天皇が象徴であるとともに、国民統合の象徴としての役割を果たすためには、天皇が国民に、天皇という象徴の立場への理解を求めるとともに、天皇もまた、自らのありように深く心し、国民に対する理解を深め、常に国民とともにある自覚を自らの内に育てる必要を感じてきました。
こうした意味において、日本の各地、とりわけ遠隔の地や島々への旅も、私は天皇の象徴的行為として、大切なものと感じてきました。皇太子の時代も含め、これまで私が皇后とともに行ってきたほぼ全国に及ぶ旅は、国内のどこにおいても、その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々のあることを私に認識させ、私がこの認識をもって、天皇として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした」
上皇さまの「おことば」こそ
「最良の帝王教育」

この「おことば」は、悠仁さまにとって最良の「帝王教育の教科書」であると、私は信じてやまない。なぜなら、長年の経験に裏打ちされたその一語、一語の持つ意味はとても深く、味わい深い。上皇さまは、「象徴とは何か」を一日も休むことなく、自らに問い続けてきた。その長く、重い旅路でつかんだ答えがここに表れている。
そして、何よりも、「これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」という一文に、私は強く心を打たれた。
上皇さまが昭和天皇の長男として生まれてから82年間の皇族、皇太子、そして天皇としての歩みのすべてが、「おことば」に凝縮されている。
成年皇族となった悠仁さまは、繰り返し、繰り返しこの文書を味わい、「全身全霊をもって象徴の務めを果たしてきた」上皇さまの魂の告白から多くのものを学んでもらいたい。