高額療養費の「所得区分」は
前年の所得によって決められる
もうひとつ、新社会人にぜひとも覚えておいてもらいたいのが、高額療養費の所得区分の決め方だ。
原則的に、高額療養費の所得区分は「前年の所得」で判断され、その年の8月~翌年7月まで適用される。例えば、25年8月~26年7月までに受けた医療費については、24年の所得で判定される。
今は働いていても、昨年1年間の収入が0円だった人は、表1の「オ」の住民税非課税が本来の所得区分だ。限度額は【3万5400円】で、医療費がいくらかかっても、それ以上は支払わなくてよいはずだ。
ところが、「限度額適用認定証」は、申請時の収入によって発行される。例えば、月収(標準報酬月額)が30万円なら、所得区分は「ウ」で、医療機関では【8万100円+(医療費-26万7000円)×1%】が限度額と判断される。
医療費が100万円だった場合は、本来なら3万5400円しか払わなくていいところを、約9万円を支払うことになる。だが、健保組合に申請すると所得区分を見直してくれて、「オ」の限度額との差額を払い戻してもらえるのだ。
新入社員は所得区分を引き下げられる可能性が大きい。就職してすぐに大きな病気やケガをして医療費が高額になったという人は、自分の所得区分を確認してみよう。
ただし、新入社員でも収入が高く、所得区分が「ア」「イ」の高所得層に分類されている人は、この特例の対象外だ。前年に収入が0円で住民税非課税でも、所得区分の引き下げはできない。
所得区分の見直し対象になるのは、現在の収入が「ウ」「エ」の所得区分の人で、前年の収入が0円、またはアルバイトの収入があっても少ない場合だ。すべての新入社員があてはまるわけではないが、いざという時に医療費の負担を下げるために覚えておきたい仕組みのひとつだ。
高額療養費には、こうした所得区分の裏ワザのほかに、療養が長引いた場合の「多数回該当」、同じ健康保険に加入している家族の医療費をまとめて軽減してもらえる「世帯合算」という保障も用意されている。
制度のアップデートによって、自動的に適用されるものも増えているが、今回紹介した所得区分の仕組みなど、自分で申請しなければ、そのままになってしまう。せっかく医療費を軽減できる制度があっても、その存在を知らなければ利用することはできない。
特に、大企業の健康保険組合には、その他の公的医療保険にはない充実した保障があるところも多い。いざ病気やケガをした時に慌てないように、自分が加入している健康保険には、どのような制度があるのかを調べてみよう。