左派寄りの人でなくとも、レントの大復活によって不況がさらに深まり、より被害が広がっていくことはわかるはずだ。賃金は、生活に苦しむ人たちによってすぐに使われる。利潤は、資本家が利潤を得る能力を維持するために、資本財に投資される。だが、レントは財産(マンションやヨットやアートや仮想通貨)の中にとどまり、流通せず、役立つものへの投資にも回らず、弱った資本主義社会の立て直しに使われることもない。すると悪循環が起きる。不況はますます深刻になり、中央銀行はさらに貨幣を発行し、収奪が増えて投資は減り、新たな悪循環を呼ぶ。
庶民が苦しむコロナ禍で
超富裕層の資産は激増
コロナ禍でその傾向が悪化した。パンデミック前との唯一の大きな違いは、今回、2008年以降ではじめて、中央銀行が発行した数兆ドルの一部を政府が人々のために使い、ロックダウンの中で市民を生かしたことだ。とはいえ、その新しいカネのほとんどは結局、巨大テック企業の株価を押し上げただけだった。2020年10月に発行されたスイスの投資銀行UBSの報告書によれば、同年の4月から7月までのあいだに超富裕層の資産が3割近く(27.5パーセント)増えたとされるが、このこともそれで説明できる。そのあいだ、世界中の多くの人々が仕事を失い、日々の生活にも困窮して政府の補助を受けていた。
その一方で、ロックダウンにより港や道路や空港が閉鎖され、モノの供給は細っていった。特に、長年にわたる投資不足によって生産能力が縮小している経済圏での供給不足は深刻だった。供給が突然途絶えたらどうなる?特にそれがロックダウンの最中で、多くの人たちが中央銀行の資金によるなんらかの収入支援に頼っているときだったら?日用品や自転車やパン、天然ガスや石油や住宅やそのほかのたくさんのモノの値段が青天井で上がっていき、大インフレが訪れた。10年以上も価格が抑制されていたにもかかわらず。
サプライチェーンの分断による今回のインフレが緩やかなものにとどまると期待した人も多かった。このインフレが「一過性のもの」だとする期待には一理あった。1970年代には強力な労働組合がインフレ率を上回る賃上げを勝ち取っていたが、2020年代の労働者の交渉力は、以前に比べると見る影もなくなっていた。政府のばらまき政策が終わり、一時帰休制度や所得補助制度もなくなれば、一般大衆の購買力は失われ、需要も減って物価も下落するだろうと思われた。だが、そうはならなかった。