マスクが満たされない思いを抱えていたとしても、不思議はない。自動車メーカーとして大成功し、世界一の富豪の座を手に入れたにもかかわらず、彼は新たな支配階級の仲間入りができていなかった。

 自動車メーカーのテスラはクラウドを賢く利用し、自動車をデジタル・ネットワークの接続点に変え、運転者をマスクのシステムにつないでビッグデータを収集している。

 航空宇宙企業のスペースXと低軌道で地球の周囲を汚染する衛星群は、ほかの大手クラウド資本の発展に大きく貢献している。

 だが、マスク自身はどうだろう?ビジネス界の「異端児」であるマスクは、クラウド資本(編集部注/インターネットの登場によって生まれた新しい形の資本)がもたらす莫大なレント(編集部注/地代・使用料などの権益)への入り口を持てていないことに苛立っていた。ツイッターは、その欠けていた入り口になるかもしれないのだ。

ツイッターを「なんでもアプリ」にする!?
イーロン・マスクの本音とは

 マスクはツイッターを買収するとすぐに、ツイッターをだれもがなんでも話し合える「公共の広場」として守ることを約束した。その約束はある種のプロパガンダであり、実際には、世界一短い形式の議論の場を、まさにその同じ場で真実を軽んじてきた過去を持つ、いいかげんな大富豪に任せていいのかという世間の論調から人々の気を逸らすことには成功した。

 リベラル派のコメンテーターはドナルド・トランプがツイッターに復活することを愚痴り、まともな人たちはツイッター社員へのひどい仕打ちを批判し、左派はマスクのことをテクノロジー強者版のルパート・マードック(編集部注/世界的なメディア王として知られる)の登場だと言って頭を抱えた。その一方で、マスクは目標をしっかり見据えていた。心のうちがつい出てしまったのか、彼はツイッターを「なんでもアプリ」に変えたいと投稿したのだ。

 マスクはどんな意味で「なんでもアプリ」と言ったのだろう?それはテクノ封建制への入り口という意味にほかならなかった。それによってユーザーの関心を引きつけ、消費者の行動を操作し、クラウド農奴として人々から無償の労働力を引き出し、最後には商品を売る事業者からクラウド・レントを徴収することが可能になる。

 アマゾンやグーグルやアリババ、フェイスブックやTikTokやテンセントとは違い、マスクは「なんでもアプリ」に発展しそうなものはなにも持っておらず、ゼロからそれを作ることもできなかった。そして、ほかの金持ちや大企業の傘下になく、かつ売りに出されているプラットフォームはひとつしかなかった。それがツイッターだった。