深夜にオフィスで残業する男性と山積みの書類写真はイメージです Photo:PIXTA

「固定残業代制度」いわゆる「みなし残業代制度」は、それ自体では違法ではないし、労働者側にもメリットがすくなくない。だがひとたびブラック企業の手にかかれば、実質的に「定額働かせホーダイ」の温床となってしまう。労働問題に詳しい弁護士たちが警鐘を鳴らす、彼らのやり口とは?※本稿は、ブラック企業被害対策弁護団『ブラック企業戦記 トンデモ経営者・上司との争い方と解決法』(角川新書)の一部を抜粋・編集したものです。

固定残業代でゲタを履かせた
見せかけの高収入にご注意を!

 今回は「固定残業代の繰越制度」という、ちょっと耳慣れないものについての話をしたい。

 固定残業代とは、次のようなものである。

 仮に月40時間分の時間外労働に相当する残業代が固定残業代とされているとすれば、

(A)ある月の時間外労働が45時間であった場合には、固定残業代40時間分+5時間分の残業代が支払われる。

(B)ある月の時間外労働が10時間しかなかったとしても、40時間分の固定残業代を支払う(30時間分の残業代を引いたりはしない)。

 このように、本来の固定残業代とは、長時間働けば差額精算がされるし(A)、いっぽうで短時間しか働かなかったとしてもそれで残業代が減ることはない(B)。

 もっとも、実際には少なからぬ企業において、上記(A)の差額精算が行われない、つまり文字通り残業代が「固定」されてしまい、いくら働いても支払われる残業代は定額という扱いがされてきた。

「定額使いホーダイ」とも揶揄されるゆえんであるが、もちろんこれは違法であり、労働者には差額精算を求める法的権利がある。このことも最近はだいぶ常識になってきたように思われる。

 しかし。

 そうすると、ブラック企業は、またよからぬことを考える。