儲けを出すための一番の近道
「定額使いホーダイ」の誘惑
訴状には、「固定残業代の繰越制度」が違法無効であるとする、思いつく限りの理由付けを分厚く並べた。
また、提訴に合わせて労災も申請し、無事に支給決定を勝ち取った。
これらの甲斐あってか、裁判所も当方の主張に理解を示してくれた。
そしてついには、被告企業が裁判の最中に自らこの「固定残業代の繰越制度」を廃止するまでに至ったのである。
最終的にこの訴訟は和解で決着し、和解条項では、固定残業代の繰越制度を復活させないことを企業に約束させ、また従業員に長時間労働をさせないような体制の構築も約束させた。

なお余談だが、被告企業では、この「固定残業代の繰越制度」の導入前には、「専門業務型裁量労働制」という制度が用いられていた。詳細は省くが、これも要するに一定額以上の残業代を支払わなくてよいというものである。
しかし、新卒1年目のシステムエンジニアに職務上の裁量権があるはずもないため、労基署から同制度の適用について「ダメでしょ」という指導が入り、同制度はやめざるをえなくなっていた。「固定残業代の繰越制度」は、これに代替するものとして、苦心の末に編み出されたものであったと思われる。
ことほどさように、ブラック企業の「定額使いホーダイ」への欲望は、強く、根深い。2018年に成立してしまった、いわゆる「高度プロフェッショナル制度」は、この欲望がついに合法化されてしまったものではあるが、これ以外にも、ブラック企業は今後も違法な手段も含めてあの手この手で「定額使いホーダイ」を実現しようとしてくると思われる。
「あれ、これは実質『定額使いホーダイ』なのでは?」と思われるケースがあったら、迷わずにブラ弁に相談してほしい。