
「進次郎さんは天才だな」――。5月31日朝、随意契約で売り渡された政府備蓄米の販売が大手スーパーで始まると、5キロ当たり2000円台のコメを買い求める消費者が長蛇の列を作り、即完売となった。「コメ狂騒曲」ともいえる光景に首相の石破茂は思わず周辺にこう漏らした。暴言を発して農相を更迭された江藤拓に代わって農相に就任した小泉進次郎は石破が期待した通りの発信力と行動力を発揮した。
小泉の農相就任からわずか10日。コメの高騰問題に対する消費者の関心の高さの反映でもあった。小泉は随意契約による備蓄米の販売は早くて6月4日と見込んでいたが、スーパーなどが次々と販売前倒しに向かった。「一番乗り合戦が始まった」と歓迎した小泉は「農水省が方針転換とスピードに付いてきてくれたお陰」とも語った。
昨年の衆院選での大敗以来、少数与党政権という厳しい政治状況に身を置く石破にとって江藤発言は致命傷になりかねなかった。このため後任の農相選びが政権の命運を左右するのは間違いない。石破は即座に過去2回、総裁選で石破を支持した小泉の起用を考えたが、自民党幹事長の森山裕との調整が残っていた。森山が農相として初入閣した際の党役員人事で農林部会長になったのが小泉だった。この人事は環太平洋連携協定(TPP)交渉が大筋妥結直後に断行され、交渉に強く反対してきたJAグループとの間に生じた溝を埋める“終戦処理”が森山に課せられた最大の仕事だった。
ところが小泉はJA改革に乗り出す。最後は小泉が「負けて勝つ」の言葉を残し、中途半端な結末を迎えた。