
M&A仲介業界に、再び強烈な逆風が吹くことになりそうだ。設立後わずか約2年間で、少なくとも19社の中小企業を買収していた“ストロングバイヤー”が、元子会社の1社から訴えられ、7月に第1回期日を迎える。訴訟を通して、M&Aの経緯や両社間で何があったのかが明らかになるとみられるが、その際に関わったM&A仲介会社も注目されることになりそうだ。特集『M&A仲介 ダークサイド』の#10から複数回にわたり、詳細レポートをお届けする。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)
7月開始の訴訟にM&A仲介業界が震撼
中小企業のさらなるM&A意欲減退は必至
M&A仲介会社は、事業承継を目的とした中小企業同士のM&Aを、譲り渡し企業(売り手企業)と譲り受け企業(買い手企業)の間に立ち、価格などの条件交渉から法的手続きの支援までを行う。この10年、国内の事業承継ニーズの高まりとともに、急成長してきた。
そんなM&A仲介業界が注目する訴訟が7月3日、第1回期日を迎える。
原告は建築工事業を営むトミス建設(本社:神奈川県川崎市)と、その子会社 で同じく建築および土木工事を請け負う高橋工務店 。被告はマイスホールディングス(本社:大阪府大阪市)およびその代表者である森秀幸氏、同社の関係者とみられる個人など合計7者だ。
マイス社は「企業と福祉をつなぎ、障がい者が働き収益を生み出す環境を作る」という考えに基づき、2023年3月に設立された。さらに、新事業の創出と成長、雇用の創出のために、M&Aも行っているとしている。ダイヤモンド編集部の取材では設立後、約2年間で土木・建設業や卸売業、運送業、フィットネスクラブなど、少なくとも19社の中小企業を買収している。
トミス建設はその一環で24年8月にマイス社に買収された。25年1月に売り手企業オーナーで元社長だった佐藤敏行氏が株式を再取得したため、マイス社の元子会社となる。
M&A仲介会社が、トミス建設とマイス社の訴訟に注目するのはなぜなのか。
まず挙げられるのは、マイス社は短期間で中小企業の買収を繰り返す“ストロングバイヤー”として、M&A仲介業界内では知られた企業であることだ。そしてマイス社の特徴的なM&A戦略に、大手M&A仲介会社が深く関与していたからだ。
トミス建設はマイス社に買収された4カ月後、倒産寸前の状況になった。裁判所の判決がどうなるかは分からないが、その経緯は訴訟を通して明らかになるだろう。その結果次第では、マイス社のM&Aに関与したM&A仲介会社に厳しい視線が向けられ、M&A仲介業界全体のイメージ悪化に波及することも考えられる。
次ページで訴訟の内容を詳しく解説するとともに、大手M&A仲介会社の名前を明らかにする。