2021年11月から2年間で30社近い中小企業を買収し、資金を吸い上げるなどしてトラブルを頻発させた投資会社ルシアンホールディングス。23年12月に代表者が消息を絶ったことで、事件の全容は解明されないまま現在に至る。一方、被害に遭っていた傘下企業は悪夢から解放され、事態収拾に向けた動きも見え始めた。だが、傘下企業の一社である内田建設は違った。特集『M&A仲介 ダークサイド』の#9では、ルシアンに蹂躙された後、今まさにメインバンクに息の根を止められようとしている内田建設の惨状をレポートする。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)
いまだに続くルシアンの悪夢
内田建設が窮地に陥った背景
「自分にできる最後の仕事でした」
東京都足立区竹の塚に本社を構え、主に土木の公共工事を手掛ける内田建設の内田眞社長は、悔しそうに言葉を吐き出した。
“最後の仕事”とは、24年1月まで内田建設に所属していた、陸上女子三段跳日本記録保持者の森本麻里子選手を、新たな所属先であるオリエントコーポレーションに送り出すことだった。森本選手はその後、パリオリンピックに出場。女子三段跳びで日本人女性として初めてオリンピックに出場した選手となった。
内田建設は社員20人と小規模ながら、競技生活を支えられるだけの安定した経営基盤を持っていた。公共事業の入札参加に必要な1級土木施工管理技士が複数人在籍し、自治体が発注する造成工事の落札実績もあった。故に、バブル崩壊や新型コロナウイルスのまん延などのピンチも、なんとか切り抜けてこられた。
そんな内田建設は、23年2月から12月にかけて経営状況が急速に悪化し、取引先への支払いができないほどの瀕死の状態に陥った。そして冒頭の“最後の仕事”に至っている。
原因は、全国で30社近い中小企業を買収し、資金を引き抜くなどしてトラブルを引き起こしていた投資会社、ルシアンホールディングスだった。メインバンクから紹介された中堅M&A仲介会社がルシアンと内田建設を引き合わせ、23年1月末にM&Aが成立。直後から断続的に資金を抜かれていたのだ。
全国でトラブルを引き起こしていたルシアンは、23年12月に代表者が消息を絶ったことで崩壊。と同時に、買収された企業の悪夢は終わるかに思えた。だが、内田建設は違った。あろうことかメインバンクに、息の根を止められようとしているのだ。
前述したように、内田建設は日本代表選手の競技生活を支えるなど、社会に貢献してきた企業だ。その企業を、M&A仲介会社を紹介するなど窮地に至るきっかけを作っておきながら切り捨てようとするメインバンクの対応は、中小企業を担当した経験がある複数の銀行員も「ありえない」と眉をひそめる。
内田建設が23年1月末から経験した悪夢と、内田建設を切り捨てようとしているメインバンクの対応、さらにM&Aを仲介した仲介会社の実名と同社社長のずさんな対応を、次ページでつまびらかにしていく。