M&A仲介 ダークサイド#23Photo by Yasuo Katatae

M&A総合研究所は2018年に設立されてから急成長し、M&A仲介業界で売上高4位にまで上り詰めた。しかし、24年5月以降に相次いで明らかになった悪質な譲り受け企業数社とのM&Aに、仲介などで関与していたことが発覚した。関与した件数は、他のM&A仲介会社と比べて多い。それはなぜなのか。特集『M&A仲介 ダークサイド』の#13で、M&A総合研究所の内実に迫った。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)

ジョイワーク、ANEW Holdings…
不適切な買い手とのM&Aが多い理由とは?

 2024年5月以降、中小企業のM&Aにおいて、譲り渡し企業(売り手企業)とトラブルを起こす譲り受け企業(買い手企業)の存在が次々と明らかになった。ルシアンホールディングスにジョイワーク、ANEW Holdings、トウキョウファーム、日本製造などがその代表例だ。

 中でもルシアンホールディングスは大きな問題となった。同社は買収した子会社から資金を吸い上げた上で、経営指導などを行わずに放置し、事業停止や倒産に追い込んだ。また、事業を売却した売り手企業の前オーナーが負っていた経営者保証を引き継がず、前オーナーに債務だけが残る状況にさせることも特徴だった。

 同様のトラブルを起こし、売り手企業を窮地に追いやる買い手企業のM&Aに、大手を含む複数のM&A仲介会社が深く関与していたことは、業界に大きな衝撃を与えた。それが25年8月のM&Aガイドラインの改定や、業界団体であるM&A支援機関協会の自主規制強化などに結び付いたわけだ。

 具体的に、トラブルとなったM&Aに関与したM&A仲介会社を調べると、業界4位のM&A総合研究所は、ジョイワークとANEW Holdings、日本製造のM&Aに仲介業務などを提供していた。件数は他の仲介会社よりも多い。

 同社の親会社であるM&A総研ホールディングスは東証プライム上場会社であり、創業者である佐上峻作社長は、業界団体のM&A支援機関協会の理事を務めている。

 M&A総合研究所は、まさしくM&A仲介業界の中心企業の一社だ。同社はさすがに危機感を覚えたのか、24年夏に買い手企業に対する社内審査の厳格化に着手。財務調査や反社会的勢力との関係性をチェックするフロー、担当者の評価制度を見直したほか、同社内で見聞きした不適切な買い手企業を分析し、100項目の定性的なチェック項目を作成して、社内で周知するなど対策を強化した。

 しかし、対策前に同社が仲介などで関与したM&Aの中には、売り手企業と買い手企業のトラブルの芽が依然として潜在していた。本特集#10や#12で明らかにしたように、23年11月にアドバイザリー業務契約を締結し、24年8月にM&Aが成立したトミス建設とマイスホールディングスのケースは25年7月、訴訟に発展している。

 なぜM&A総合研究所は、問題あるM&Aを行ったり、売り手企業とトラブルになったりする買い手企業とのM&Aに関与する件数が多いのか。

 M&A総合研究所は「原因は買い手企業への調査が不十分だったこと。それについては対策を打っている」(荻野光取締役CFO)としている。しかし同社の内実を取材すると、原因は買い手企業への不十分な調査だけではなさそうだ。それらは一体何なのか。現役社員や関係者の証言を基に、次ページで詳しく解説していく。