M&A仲介 ダークサイド#16Photo by Yasuo Katatae

M&A仲介大手のM&Aキャピタルパートナーズ(MACP)が、独立開業した元社員らに約2.9億円の損害賠償を求める訴訟を起こしていたが、今年5月に敗訴していたことが分かった。判決では、MACPが社員に書かせていた退職後の競業避止義務の誓約書を「公序良俗に反する」と断じており、M&A仲介業界で慣行となっている社員の競業避止義務についても影響が出そうだ。特集『M&A仲介 ダークサイド』の#16では、その詳細を明らかにする。(フリーライター 村上 力)

退職後3年は競業禁止、違反なら巨額賠償
訴訟の根拠となった「誓約書」の過酷な内容

 東証プライム上場のM&A仲介大手、M&Aキャピタルパートナーズ(MACP、中村悟社長)は、不正競争防止法や競業避止義務違反などを理由として、元社員らに合計約2億9000万円を請求する訴訟を2022年に提起していた。

 事の経緯はこうだ。21年11月に、MACPを退職した元社員2人が別のM&A仲介会社を新たに設立。そこに22年1月から4月にかけて、MACPを退職した元社員9人が入社した。

 MACPは元社員らに探偵を張り付けるなどして情報収集を行った。そして元社員や新設会社が、社員の不正な引き抜き行為、情報の不正持ち出し、社員への競業避止義務違反の教唆を行ったとして、巨額訴訟を提起したのである。ダイヤモンド・オンラインでは23年8月、この背景事情として、社員の監視を強めるMACPの状況について報じている(『年収1位企業「M&Aキャピタルパートナーズ」が引き抜き行為巡り泥沼訴訟!GPS監視や賞与繰り延べで強まる社員の束縛』参照)。

 巨額訴訟の根拠となったのが、MACPが社員に提出させている「誓約書」だ。退職後3年間は競合他社に転職しないことを誓い、もし違反した場合は、在職中に受け取った賞与額相当の損害賠償に加え、2000万円の「違約金」を支払うという内容だ。

 それから2年。東京地裁が今年5月に出した判決は、「原告の本訴請求をいずれも棄却する」――。MACPが敗訴したのだった。次ページでその内容と、M&A仲介業界全体に波及するインパクトを明らかにする。