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M&A仲介大手のM&A総合研究所が運用している「退職にかかる誓約書」は、内容の過酷さから退職者やM&A仲介業界内で恐れられている有名な文書だ。競業避止義務に違反した場合の賠償金は、億を超える金額が設定されることもある。同社は2025年10月に内容を一部改訂したが、その過酷さは依然として残っている。特集『M&A仲介 ダークサイド』の#17では、ダイヤモンド編集部が独自入手した同社の誓約書の中身を公開。そのうえで、弁護士や社会保険労務士といった専門家に誓約書の問題点を指摘してもらった。さらに、M&A総合研究所の見解もお届けする。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)
M&A総合研究所で運用されてきた
過酷すぎる「退職にかかる誓約書」
M&A仲介会社は、会社を売りたい譲渡企業と、会社を買いたい譲受企業の間に立ち、価格交渉から譲渡に関する法的手続きなどを支援し、M&Aの成立を目指す。成立した場合に成功報酬の形で得る手数料が、売り上げとなる。後継者不足が日本の産業界にとって喫緊の課題だと認識される中で、その解決策としてのM&Aが注目され、急成長を遂げてきた。
M&A総合研究所はそんな急成長するM&A仲介業界の中でも、飛ぶ鳥を落とす勢いで売上高を伸ばしてきた1社だ。持ち株会社であるM&A総研ホールディングスの2025年9月期の連結売上高は前年同期比0.3%増にとどまったものの、21年9月期からは約12.5倍にまで拡大。日本M&AセンターホールディングスとM&Aキャピタルパートナーズ、ストライクの御三家と肩を並べる存在感を放っている。
ところが急成長とは裏腹に、M&A総合研究所は同社を退職した元従業員からすこぶる評判が悪い。その要因の一つは、同社が退職者全員に提出を求める「退職にかかる誓約書」にある。ダイヤモンド編集部は、その文書を独自入手した。文書には、退職者からの評判が悪いのもうなずける、過酷な内容が記されていた。
M&A総合研究所法務部は誓約書の提出を求める理由について、「退職者による営業秘密の持ち出しなどの不正行為を抑止するため」とし、「強制は一切していない。あくまで同意のもとだ」と強調している。
そうであれば退職者は署名を拒否すればいい。しかし現実には多くの退職者が「それは難しい」と証言する。実際に署名したある退職者は、「会議室で人事と法務の担当者に説明されると、署名しないと辞められないと思ってしまい、署名してしまった。法的な知識もなかった」と唇をかむ。
退職者に対して誓約書への署名を求めることは、コンサルティング会社や外資系金融機関などで広く行われており、それ自体は問題ではない。ただしその内容については、議論を呼ぶことが多い。実際、M&Aキャピタルパートナーズ(MACP)が元従業員に対して起こした訴訟では、裁判所は今年5月の1審判決で、誓約書の内容にあった「退職後3年間の競業避止義務」について、「公序良俗違反で無効」と断じた(本連載#16『年収1位企業・M&Aキャピタルパートナーズが「元社員に敗訴」の衝撃!競業避止義務の“誓約書は違法”と断罪』参照)。
そうした中で、M&A総合研究所が25年10月から「退職にかかる誓約書」の一部を改訂したことが、ダイヤモンド編集部の取材で分かった。同社は、営業秘密の漏えいが不法行為になり得るという社会的な認知が広まってきたことなどを改訂の理由に挙げる。しかし、MACPの訴訟や退職者からの不評などにより、改訂せざるを得なくなったとみるのが自然だろう。
もっとも、依然として中身には過酷さは残っており、退職時に安心して署名できる誓約書とはいえなさそうだ。次ページでは、ダイヤモンド編集部が入手した誓約書の内容とそれらに対する弁護士や社労士などの見解に加え、改訂したポイント、さらにM&A総合研究所の考えも明らかにする。







