そもそも赤ちゃんや小さな子どもは誰かに依存しなければ生きていけません。適切な依存を体験することで、人は自立することができると心理学では考えられています。先ほど熊谷晋一郎さんの「自立とは依存先を増やすこと」という言葉を紹介しましたが、自立と依存は対義語ではありません。
確かに、アルコールだけに依存、ギャンブルだけに依存、1人の人だけに依存するといったことはあまり健全ではないかもしれませんが、だからといって「誰にも何にも依存するな」ということではありません。
熊谷さんが言うように、「1つではなく、多くの依存先があることがむしろ自立につながるのだ」ということを、みなさんには知っていただきたいと思います。つまり多くのサポート資源を持つことが健全な自立につながるし、「自分にやさしくする生き方」にもつながるのです。
孤立したネズミは、仲間と一緒にいられるネズミと比べて、薬物依存症になりやすいという研究を紹介しましたが、薬物依存症になったネズミを、仲間のいるケージに移し替えると、そのネズミは仲間と一緒に遊ぶようになり、自然と薬物を摂取しなくなることも、同じ研究で見出されています。
一緒に遊べる仲間はまさにサポート資源として機能しています。サポート資源が適切に提供されれば、薬物に依存する必要がなくなるわけです。ここからもサポート資源の重要性がわかりますね。
頼ってもいいという空気感が
自殺率を下げた最大の要因
岡檀さん(編集部注/和歌山県立医科大学保健看護学部講師、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科研究員)という研究者の方は、全国でも極めて自殺率の低い地域である徳島県の旧海部町でフィールド調査をして、複数の自殺予防因子を見出しました。
そのうちの1つが、旧海部町では「病は市に出せ」と言われており、心身の調子が悪かったり問題を抱えていたりする場合、早めに周囲に開示して、人に相談したり助けを求めたりすることを恥じない、という町の雰囲気があるということです。