坂本があるとき、当時サムスンの半導体部門のトップでその後グループCEOとなる李潤雨と食事をした際、サムスンのファウンドリー事業が大きくなるにはどうしたらいいかという議論になった。

 坂本は「サムスンという看板を外さないと、お客さんと競合してしまうので上手くいかないのではないか」と指摘し、李も同意して頷いていたという。何年か後に再会し何も変わっていない点を突っ込むと、「グループの方針でサムスンの看板は外せない」と弁解したという。

 坂本はこう解説した。

「純粋ファウンドリーであるTSMCや聯華電子(UMC)には、製品企画段階から顧客企業が相談に来ます。設計の部分も含めて相談します。しかし、サムスンのように自分でロジック半導体もスマホ端末もテレビも作って売っている会社にそのようなアイデア段階の話を相談すると、そのアイデアを利用されるのではないかという不安がどうしても付きまといます。いくらファイアウオール(編集部注/グループ会社間での顧客情報の共有を制限する規制)があると言い張っても、抵抗があるでしょう。やはりファウンドリーでマーケットを取るならTSMCのような中立性が大事です」

今見えるラピダス最大の強みは
顧客と競合しない「中立性」

 これはインテルのファウンドリー事業も共通して抱える問題だ。プロセッサーを本業とするクアルコムのようなファブレスメーカーはインテルに新製品の仕事を頼みにくい。

 逆に言うと最終製品も自社製ロジック半導体も持たないラピダスは、先端微細回路の量産と、それに最適な設計を請け負える体制を整えられれば、中立性を武器にファウンドリー市場でプレゼンスを確立できる可能性がある。

 ただ、自社や国内の需要が乏しいまま、最初から高い設備稼働率を実現するだけの受注を取れるのかという素朴な疑問が、ラピダス構想には最初から横たわっている。

「日本には先端ロジック半導体のファブレスメーカーがありません。スマホの大手もない。先端半導体を必要とする最終製品がないのです。そこをどうするかが、日本の課題でしょう」

 このような話をしていると、やはり肝心なのは製品とビジネスモデルの開発のところだ、という議論に坂本は立ち戻った。