そのため、20代の男性は最初、「社長って、すごい人なんだ」と思ったそうだ。だが、しばらくしてから、賞はだいたい先代のときに獲ったものだし、一緒に写真を撮ったのも広告に起用した有名人ばかりと、先輩から聞いた。
それを聞いて、「この会社は大丈夫なんだろうか」と思い始めた頃から、不眠と吐き気が出現した。
ときには、社員が仕事をしているのに、社長がやって来て延々と自慢話をすることもあるが、適当に相槌を打って「すごいですね」と感心するふりをしているという。へつらっていれば、機嫌がいいので、これも給料のうちと割り切り、我慢して聞いているらしい。
20代の男性は、大学を卒業したときに広告関係の会社に正社員として就職することができず、何年もアルバイトを転々としていた。そのため、この会社に入れなかったら、もう広告業界はあきらめようとさえ思っていたので、辞めるわけにはいかないという事情もあるようだ。
先日も、セレブばかり集まるパーティーに出席した帰りとかで、酒で赤く染まった顔をして社長が会社に立ち寄った。「○○さんが来ていた」「○○さんは、とてもきれいだった」などと自慢げに話していたが、20代の男性をはじめとして、夜遅くまで残業し、納期に間に合わせるために必死で仕事をしていた社員たちは、内心ムッとしたという。
社長は差し入れとしてパーティーの会場だった有名ホテルのケーキを配ってくれた。そういうときも、「すごいですね」と言わないと、社長の機嫌が悪くなるので、みな口々にそう言った。もっとも、20代の男性は帰りに、駅のゴミ箱に捨てたそうだ。
先代の頃からの得意先も
ベテラン社員も離れていった
この社長が有名人と一緒に写真を撮ったり、セレブばかり集まるパーティーに出席したりすることを好み、しかもそれを見せびらかすのは、強い特権意識の表れだろう。自分は「特別な人たち」と交流があって、お前らとは違うんだと誇示したいからにほかならない。