
ビジネスパーソンであれば耳にしない日はないほど、日本社会に浸透した「リスキリング」。しかし、その定義を深掘りしていくと、おかしいところが見えてくる。AIの進化が加速し「学び直し」が不可欠となった今、リスキリングの本質について組織開発の専門家が解説する。※本稿は、勅使川原真衣『学歴社会は誰のため』(PHP研究所)の一部を抜粋・編集したものです。
本来の意味からすり替えられた
「リスキング」の定義
「会社で『生き残る』ために~リスキリングを成功させるポイント」のような見出しを目にするたびに、ざらざらとした気持ちになるのは私だけでしょうか。経営戦略としての「リスキリング」の話が個人の「学び直し」にすり替わっているからです。
もともとの英語のreskillingという言葉は、組織が新たな事業戦略に必要なスキルを習得する機会を従業員の就業時間中に提供することを指すものです。
つまり、リスキリングの本来の意味は、人材不足やAI化に伴って消失するかもしれない労働を、DX化で求められるスキルをもった人材に移し替えていこうという労働移動に向けた取り組みを前提とするはずでした。少なくとも、当初は。
主体は個人か企業なのか?
そもそも定義が曖昧すぎる
日本の「リスキリング」は初っぱなから、定義でしくじっていると言わざるをえません。reskillingがアメリカで登場したのは、2015~16年頃とされています。日本では、たとえば『朝日新聞』のデータベースを遡ると、2021年10月に、労働流動性を高める政府主導の施策の例として「リカレント教育」と並列して紙面(全国版)で初お目見えしているのです。