この大前提であるから、「社員の職務を棚おろししたうえで、今後必要とされるであろう領域を特定し、それを職務要件(ジョブディスクリプション)に落とし込み、斜陽事業から移し替えていこう」――なんて、およそミッションインポッシブルでしょう。
これまでそれをやらずに維持、運用してきた雇用モデルとは端から相容れないような方針を、日本企業がやすやすと受け入れ、彼ら主導で労働移動に向けた職務の整理を行なうなんて……とんでもない。
となると、です。次に考えたいのは、日本型雇用に合わせてリスキリングを定義しよう、という話かと思いますが、それにも落とし穴があると考えています。というのも、定義以前に労働に向けられるまなざしそのものに、我が国独特の偏りがあるからです。どういうことでしょうか。
「態度」「意欲」の問題に
すり替えられている!?
定義の現在地をさらに確認するため、メジャーなリスキリング推進団体のウェブページを覗いてみましょう。「リスキリングサミット」なる著名な催しもののページには驚いたことに、「意欲」という言葉や「能力獲得」「向学心」(!)といった力強い言葉が並んでいるではないですか。労働移動に向けた企業のスキルマネジメントの話では毛頭なさそうです。
もう1つ、「日本リスキリングコンソーシアム」のウェブページも覗いてみましたが、もっと強烈で……。トップページに「今あなたに必要なスキルと仕事が見つかる」とのコピーが躍っています。やはり、リスキリングとは大前提としてスキルアップやキャリアアップと同義の、個人の自己研鑽であり、そこに問題があるとしたらそれは労働者個人の「やる気」の話なのです。
日本のメンバーシップ型雇用は、いつだってその職務(ジョブ)を特定してこなかったがゆえに、“わが社の「会員(メンバーシップ)」として適切か否か”を、具体的なスキルや技能ではなく、その労働者個人の「意欲」「態度」「姿勢」に求めてきました。