ビジネスパーソン写真はイメージです Photo:PIXTA

売れる営業はコレ」と一元的に決めつけ、そのやり方を苦手とするメンバーにまで押し付けてしまうと、それを強いられた側はいつか潰れてしまうだろう。大事なのは、人材に良し悪しをつけることなく、他者と組み合わせながら適切な職務に就かせること。そのような「組み合わせの妙」が功を奏した、保険営業の事例を紹介しよう。本稿は、勅使川原真衣『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

自分の勝ちパターンにハメ込んで
適性のない部下に負け戦を強いるな

 保険会社の営業部員・相川さん(仮名、25歳、2社目)は、テレアポが「無理」と言う。

 一方、彼を採用した上司で営業所長の浅田さん(仮名、30代後半)は、「保険営業はテレアポしかない」と言う。

 何度も表彰され「伝説の営業マン」と称された浅田さんは、組織開発専門家・勅使川原真衣ことテッシーに「育成に手こずっている営業がいる」と連絡。そこでテッシーが当の相川さんに話を聞いたところ、「思い切って転職したのに、テレアポは無理です。携帯を手にとると手が震えて、怖いです」と涙ながらに吐露。これを上司の浅田さんに伝えたところ――。

テシ ……というわけなんです。

浅 なるほど。大の大人が見ず知らずのテッシーの前で泣くってんだから、やっぱり相当追い込まれてますよね。俺が目の前に座っても、同じことは聞き出せないなぁ。さて、問題はここから。どうしたらいいものか。

テシ 営業の世界でこれが許されるのかどうか分かりませんが、私の考えをお伝えしていいですか?

浅 どうぞ。

テシ 医者でない私が見ても、彼の抑うつ感は見て取れます。もうこれ以上、「何でクロージングできないんだよ!」とか「テレアポしないでどうすんだよ、遊びじゃないんだぞ」とどやしたら、本当に危ない橋を渡りかねない、そのくらいに思ったほうがいいと思います。他方で、相川さんは、この仕事から早々に逃げ出したいわけではなさそうです。浅田さんへの感謝のようなこともお話しされていました。

 ならば、変わるべきはこちらではありませんか?テレアポで手が震えて身動きがとれないと言うなら、いいじゃないですか、既契約の保全活動(家族構成の変化や転職などで人生設計が変わった際に保険契約の見直しなどを行うこと)のプロフェッショナルに育てたら。

 もしくは、向き合っての商談はできるのであれば、テレアポまでは所長がやったっていけない理由はないですよね?口八丁手八丁で案件を成約するものの、そのあとほったらかしの営業だっています。その人たちのフォローに回るとか、アリじゃないですか?

 ないしは、新規契約がどうしても必要なら、彼のような柔和で誠実さがにじみ出る、おとなしめのタイプは、例えば節税対策に血眼な経営者のところなどに行かせず、職域営業を中心にしてあげたらいいのでは?自衛隊や学校など、華やかなゴリゴリ系営業は行かないけどもマーケットとして安定的で大きなところがありますよね?