
36歳にして視力を失った著者・石井健介さん。目が見えなくなったのは、本当に突然の出来事だったという。視力を失うまでの数日の間にあった違和感、そしてその時彼が何を感じたのかを語る。※本稿は、石井健介『見えない世界で見えてきたこと』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。
喫茶店のメニューの
文字が消えていた
2016年4月15日の金曜日、僕は仕事の打ち合わせのため、有楽町駅前にある椿屋珈琲で待ち合わせをしていた。お相手は占い師で、当時の僕は、ファッション誌やウェブサイト、そしてテレビに掲載される占い原稿を制作する会社の仕事をしていた。一度は目にしたことがあるであろう朝の情報番組のアレもそのひとつで、世の中にはいろいろな仕事があるもんだなと、今まさにあなたが思ったであろうことを、この仕事を始めた当初の僕も思っていた。
メイド服のようなかっこうをした店員がメニューを運んできてくれた。ページをめくると、何か違和感を覚えた。書かれているメニューのところどころ、文字が消えているのだ。
僕は目の前に座る占い師のLさんに「このメニュー、変ですね。文字が消えてますよ」と言うと、彼女からは「そんなことないよ」という答えが返ってきた。僕は自分の目を疑い、目を凝らし、再びメニューを見て気がついた。あ、これは僕の目のせいだ。左目の中心部の1カ所だけ、小さく白く抜けて見えづらい場所がある。