夜になり、3歳の娘に寝かしつけのための絵本を読んだ。これは娘と僕にとってのいつものお楽しみで、毎日3冊の絵本を読み聞かせながら、あれこれと話をする甘い甘い時間なのだ。この夜は『SNOWMAN IN AFRICA』の日本語翻訳版を選んだ。とてもカラフルな絵が印象的な本なのだが、その絵と文字を目で追っていると、朝よりもけっこう見えづらくなっている実感があった。
「見えないよ!」と
叫びながら泣いた
家事を終えた妻は、生後3ヵ月の息子とともにつかの間の眠りについていた。僕は誰も起こさないようにふとんをそっと抜け出し、日課にしている、半身浴をしながらの読書のために浴室へと向かった。しかし、いよいよどうにも文字が見えづらい。湯気のせいではない。医者に疲れ目だと言われたことだし、目の上に温かいタオルを置いていたわることにした。そのままぬるま湯につかっていると、とろとろと微睡の中に溶けてしまった。
しまった……どれくらいの時間が過ぎたのかもわからないまま目を覚まし、子供たちを起こさないようにドライヤーで髪を乾かすことはあきらめ、半ば濡れた髪のまま、再びふとんの中に戻った。隣ですやすやと寝息をたてる娘の髪をなで、頬にキスをしてから、僕も彼女がいる夢の中へと向かった。
翌日の朝、目を開けると、夢の中のような光景が目に飛び込んできた。視界のすべてがにじんでぼやけ、何ひとつとしてはっきりと見えない。寝ぼけた頭もあいまって、状況が今ひとつ飲み込めない。かたわらでまだ寝息をたてている娘に目を向けると、彼女が寝ている姿はぼんやりと見えるのだが、その顔はまったく見えない。
僕がそのときにあげた叫び声のなかには、どんな感情が入り混じっていたのだろう。混乱、恐怖、絶望、あるいはそのすべてだったのか。とにかく大声で泣き叫びながら、すでに起きて朝食の準備をしていた妻の名前を呼んだ。