違和感を覚えつつも打ち合わせを終えた僕は、娘を保育園に迎えにいって帰宅。そのころには、見えづらい場所があることすら気にも留めなくなっていた。人は些細なことには目をつぶってしまうのかもしれない。
しばらく後に帰宅した妻に目のことを話すと「とりあえず明日、病院に行ってきたら?」とアドバイスをくれた。彼女は看護師、その助言を無下にすることはできない。翌日、僕は隣駅の駅前にある眼科クリニックへと足を運ぶことにした。
病院で「ただの疲れ目」と
診断されるも……
ターミナル駅の駅前、しかも土曜日の午前中ということもあり、待合室はごった返していた。こちとら予約もしていないし、これは少なく見積もっても1時間は待たされるだろうと静かに覚悟を決めた僕は、iPhoneを取り出し、ひまつぶしに、当時流行っていた“自分に似せたアイコン”を作成できるアプリで画像を作成することにした。
漫☆画太郎先生の画風で自分をイラスト化できるというそれは、イラストに添えるセリフも、いくつかあるなかから選ぶことができた。僕が選んだセリフは「ゆるキャラよりも、ゆるいキャラになるぞーーー」で、あまりのできばえに、待合室で笑いをかみ殺すのに必死だった。
そしてすぐに、LINEのプロフィール写真を変更した。あれから8年たった今でもそのままにしてあるので、いつか僕とLINE交換をする日がきたならば、その画像を見て笑ってほしい。
ようやく自分の名前が呼ばれ診察室に入ると、そこには30代くらいの男性の医師が座っていた。僕はものの2秒で、彼を見た目で値踏みした。ちょっとスカした感じ、きっとどこかの大学院からお小遣い稼ぎのアルバイトで来ている、そんなふうな雰囲気だった。ひととおりの検査を終えると彼は「疲れ目でしょう、点眼薬を出しておきます」と言った。
ただの疲れ目か。それについては心当たりがあるが、疲れ目の診断を受けるために2時間以上も時間を消費してしまったのか、と心の中で軽く毒づく。検査のための目薬のせいで瞳孔が開き、朝よりも見えづらくなった状態のまま、僕は家族と合流をしてそのままショッピングモールへと出かけた。