デビューは偶然、芸名の由来
そんな彼女がコメディエンヌとしての道を歩き始めたのは、まったくの偶然からだった。2023年の春、ずっと大好きだったあるコメディエンヌのライブを見に出かけ、観客席で大きな笑い声をあげていた彼女に舞台上のコメディエンヌがマイクを渡した。そして、彼女の職業を尋ねたとき、彼女はこう答えた。
「村の情報センター主任です……どこそこの家の娘が都会から逃げ帰ってきたとか、そういうゴシップ専門の」
これが大爆笑を巻き起こし、彼女の「才能」に目をつけた主役のコメディエンヌが、彼女をプロ訓練コースに招待した。この時の2人のやりとりはネット上で100万回以上のアクセスを集めたといわれる。
そして、異例の「大媽(おばさん)」コメディエンヌとしてデビューした房主任は、この時の延長でこんなネタも披露している。
「わたしはね、村ではハイエンド人材だったの。いろいろ頼みごともされ、引っ張りだこだった。わたしはネットも使えるし、村中のスマート家電や洗濯機、ケーブルテレビの問題はいつもわたしが直してあげてた。村のイーロン・マスクって呼ばれてたんだから」
コロナ禍以降、スタンダップコメディが人気に
中国ではここ5~6年、若い世代の間で「脱口秀」(スタンダップコメディ)が大人気だ。庶民が日常生活で感じている矛盾や不満などを、コメディアンたちが面白おかしくデフォルメしたネタが大ウケしている。
特に、コロナ禍以降顕著なのが、女性コメディアン(コメディエンヌ)たちの台頭である。
覚えておられる方もいるかもしれない。中国政府の厳しいコロナ対策を終了させるきっかけとなった自発的抗議デモ「白紙運動」は、それを始めたのも、また各地の行動の組織にも、女性たちが多く関わった。それまでも女性の権利を訴える動きはあったものの、ずるずるとエスカレートし続けた政府のコロナ対策への怒りで多くの女性が立ち上がったのだった。
ポストコロナ期に入ると、これまで以上に各方面で女性たちが声を上げるようになり、スタンダップコメディの世界でもこれまで長い間、女性が抱えてきた不満を笑いに変えるコメディエンヌたちが続々と出現。それと同時に観客席にも女性の観客がどっと増え、「女性コメディアンの時代が来た」とまで言われるようになった。