義父から当時の衆議院議長の大岡育三を紹介してもらい、大岡から外務省の秘書官である松岡洋右につないでもらいます。
小説『ヤマ師』より引用(P130~131)
「そうだ、外務省の秘書官で松岡洋右という者がいる。俺と同じ山口出身で、豪傑風の男だから、そういう問題にはピッタリだ。是非会ってみろ」
豪傑ではなく豪傑「風」と言ったのが気になったが、大岡は早速、松岡に電話してくれた。
(略)
大岡から事前に話を聞いていたのか、最初から松岡は憤っていた。
「露助(ロスケ)の連中はやることが汚いな。国際信義にもとる行為だ。私に任せてくれ。省内で抗議文をまとめて早急に送りつけてやろう」
そう言うなり、担当の役人を呼んで電文を書かせた。その内容は太郎の想像のはるか上を行くものだった。
「モシ契約ヲ履行セザレバ、出兵モ辞サズ」
たかだか鮭缶のために、日本が兵を送るというのである。過激な電文にホルヴァート将軍は慌てた。そもそも革命のどさくさで生まれた地方政権にすぎない。調子に乗って民間の商人をいじめてみたが、日本軍に攻められたらひとたまりもない。思いもかけない日本政府からの脅しにあさりと屈し、荷物の船積みと出航を許可したのだった。
(略)
この勝負で得た利益は数百万円に及んだ。普通の人間なら一生かかっても使い切れないほどの金額である。しかし太郎にとっては、その金額がもたらす喜びよりも「勝負に勝った」という恍惚が上回った。全財産を注ぎ込み、人を信じ、人に騙され、人に助けられ、難局を乗り越えた経験の先に得た最上の快感である。
「そうだ、外務省の秘書官で松岡洋右という者がいる。俺と同じ山口出身で、豪傑風の男だから、そういう問題にはピッタリだ。是非会ってみろ」
豪傑ではなく豪傑「風」と言ったのが気になったが、大岡は早速、松岡に電話してくれた。
(略)
大岡から事前に話を聞いていたのか、最初から松岡は憤っていた。
「露助(ロスケ)の連中はやることが汚いな。国際信義にもとる行為だ。私に任せてくれ。省内で抗議文をまとめて早急に送りつけてやろう」
そう言うなり、担当の役人を呼んで電文を書かせた。その内容は太郎の想像のはるか上を行くものだった。
「モシ契約ヲ履行セザレバ、出兵モ辞サズ」
たかだか鮭缶のために、日本が兵を送るというのである。過激な電文にホルヴァート将軍は慌てた。そもそも革命のどさくさで生まれた地方政権にすぎない。調子に乗って民間の商人をいじめてみたが、日本軍に攻められたらひとたまりもない。思いもかけない日本政府からの脅しにあさりと屈し、荷物の船積みと出航を許可したのだった。
(略)
この勝負で得た利益は数百万円に及んだ。普通の人間なら一生かかっても使い切れないほどの金額である。しかし太郎にとっては、その金額がもたらす喜びよりも「勝負に勝った」という恍惚が上回った。全財産を注ぎ込み、人を信じ、人に騙され、人に助けられ、難局を乗り越えた経験の先に得た最上の快感である。
太郎の勝負勘とは、
「人間を信じる力」
この一連のエピソードには、山下太郎のビジネス観が凝縮されています。自ら手を動かすべきときと、人に任せるべきとき。秘密を守るために煙幕を張る一方で、いざというときは素早く人に頼る。大胆さと繊細さ、計算と即興を自在に使い分けるセンス、研ぎ澄まされた勝負勘を太郎は持っていました。
トラブルが起きたとき、「自分一人で何とかしよう」と思うのは自然なことです。しかし、勝負師は違います。困難を突破するために、どれだけ人を頼れるか。太郎はそれを知っていました。だからこそ、彼の下には人が集まり、チャンスが舞い込んできたのです。
この鮭缶での勝負は、太郎が単なる「ヤマ師」ではなく、時代の波を読み、人と制度を動かす胆力を持った「経営者」であったことを如実に示しています。そして私たちに問うてきます。あなたはトラブルに遭遇したとき、何を背負い、誰に助けを求めますか?
Key Visual by Noriyo Shinoda