大事は軽く、小事は重く
凡百の経営者は逆をやって失敗する

 火災という大ピンチに際して追加融資を申し込みに訪ねてきたにもかかわらず、火災を「好機」と語り、祝電まで披露しながら笑顔を崩さなかった太郎に対し、もともと計画に懐疑的だった川北禎一頭取は呆れ、応接室を出た後に「信用できない」と切り捨てました。

 しかし中山は、太郎の態度をむしろ高く評価します。

「大事は軽く、小事は重く」というが、凡百(ぼんぴゃく)の経営者は逆をやって失敗する。しかし、太郎は本質を見ている。肝が据わっていると言うのです。

 中山の目には、太郎の“明るさ”は虚勢ではなく、未来への確信と責任感の現れとして映っていたのです。周囲が動揺する中、リーダーとして最も大切な資質――すなわち「希望を語る力」を、太郎は自然体で体現していたといえるでしょう。

 最終的に川北は中山の熱意に折れ、火災後のリスクを承知のうえで、興銀としてつなぎ融資に応じる決断を下します。

「彼には運がない」のではなく、「運が試されている」。中山がそう信じたからこそ、この日本初の民間石油開発事業は、ぎりぎりの綱をつかんで前進を続けることができたのです。 

Key Visual by Noriyo Shinoda