人の気持ちを考えない言動は
いじめのトラウマからきている

 政府効率化省(DOGE)を取り仕切っていたイーロン・マスク氏こそ、その代表であろう。マスク氏については、「公式伝記」と銘打たれている『イーロン・マスク』(上・下)に詳しい。

 マスク氏は1971年、南アフリカで生まれ、9歳のときに両親が離婚。治安の悪い当時の南アフリカでは、通学途中に銃撃戦が起きたり、死体が転がっている場面に遭遇したりといった殺伐とした環境で育ったという。

 両親の離婚により、父親と暮らすことを選んだマスク氏だが、父親から人格否定などの虐待を受けて育った。高校に行ってからも激しいいじめに遭い、いじめの域を超えた暴力を振るわれたことで病院に担ぎ込まれることもあったという。こうした幼少期から青年期の経験が、マスク氏の価値観を構成しているのではないかとみられる。

 マスク氏は現在も従業員に対して人格を否定する発言をするなど、人を人とも思わない扱いをすることが問題となっているが、こうした振る舞いは自身の経験によって、他者に対する共感力を養うことができなかったためではないか。

 孤独だったマスク氏はSF小説に没頭し、このころの読書経験が、現在のスペースXの宇宙事業につながっている。「火星に人類を送る」という発想も、子どものころの読書経験から来るものなのだろう。

ビジネスでは天才でも
人としては未熟なまま

 その後、マスク氏は父親からの精神的虐待に耐えかねて、祖国に移住していた母のいるカナダへ渡る。母の親戚の家を転々としながら肉体労働で学費を稼ぎ、カナダの大学からアメリカのペンシルベニア大学に転校。さらにスタンフォード大学大学院に進むことになる。

 当時は、インターネットが普及し始めた黎明(れいめい)期にあたる。

 マスク氏は「こんなに革新的な技術が広がり始めているときに勉強している場合ではない」と考え、大学院を休学し、インターネットのソフト開発を始める。

 そこで大成功したのが、職業別の電話帳と地図を連動させたソフトの開発だった。これが大当たりし、「ぜひ売ってほしい」という会社へ売却した。これが彼の経営者としてのスタートとなる。

 1999年にはオンライン決済サービスを提供するX.comを設立。

 しかし他者への共感力に乏しいマスク氏は、社内で次々にトラブルを起こし、最終的には社を追い出されることとなる。そこで持っていた株を売却し、次にEV(電気自動車)メーカーのテスラ、そして宇宙事業を手がけるスペースXを創設。さらにはTwitterを買収し、Xと改称させるに至る。